研究課題/領域番号 |
25370867
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
中嶋 毅 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 教授 (70241495)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 在外ロシア / ソ連 / 白系ロシア人 / ハルビン / 満洲国 |
研究概要 |
本研究は、ロシア革命後に共産党政権に反対して亡命したロシア人が形成した「在外ロシア」世界とソ連社会主義体制との対立と相互浸透の諸相を、戦間期の国際都市ハルビンを中心として同時代の史料に基づいて実証的に分析し、在外ロシア世界の変容とその歴史的意義を解明することを課題とした。本年度は、戦間期のハルビンを中心とした亡命ロシア人社会がソ連・中国および日本との関係においてどのような政治的・社会的影響を及ぼしたかを考察すべく、満洲国統治下のハルビンで1933年に発生したソ連系ユダヤ人富豪の子息誘拐事件であった「カスペ事件」をめぐる諸勢力の対応について考察した。 この研究課題の遂行を通じて、以下のような諸点を明らかにすることができた。 (1)本事件は本来的には亡命ロシア人ファシスト集団による営利誘拐事件であったが、被害者がフランス国籍保持者であったため事件が国際的スキャンダルを呼び起こし、事件をめぐる捜査当局とフランス領事館の確執、ユダヤ人コミュニティの対応、犯罪を実行した白系ロシア人ファシスト集団による激しいユダヤ人攻撃など様々な要因が複雑に影響しあって、結果的に政治的色彩を帯びることになった。(2)実行犯たる白系ロシア人ファシストの背後に関東軍ハルビン憲兵隊と特務機関の支援が存在していたのみならず、憲兵隊通訳を通じて憲兵隊・特務機関が事件に深く関与した疑いが濃厚である。(3)歴史的文脈の中で本事件を考えると、営利誘拐事件や日本軍当局の陰謀といった従来の解釈にとどまらず、満洲国におけるロシア系住民統合政策の本質に深く関わる事件であったと捉えることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の研究計画のうち、戦間期の在ハルビン・ロシア人社会が同時代のソ連・中国および日本との関係でどのような政治的・社会的位置にあったか、という問題について研究を進め、当該テーマに関する研究成果を国際会議で発表するとともに論文として公表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果をふまえて、戦間期のハルビンを中心に亡命ロシア人が組織していた諸団体が同時代のソ連体制をどのように把握していたかを解明することを研究の中心的課題に設定し、これに関連する史料の収集とその分析に従事する。この作業と併せて、ハルビン在住のソ連国籍者による在外ロシア世界に対する認識についての同時代史料を収集し分析する作業を実施する。
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