オルガンの破壊命令に代表される、1640年代のイングランド長期議会による教会音学の統制を、近世イングランドの政治・宗教・文化の歴史的構造の中で考察した。まず16世紀からの「長い宗教改革」における音学の位置付けについて確認し、17世紀前半に導入された典礼改革の意義を論じた。ケース・スタディとして1620年代のダラム大聖堂における論争を分析し、1640年代の議会政策への連続性を明らかにした。大聖堂改革に着手し、教区礼拝に詩篇歌を導入した議会の音楽政策の背景には、神学的対立だけでなく、教会統治に対する聖俗の権限の問題や、聴覚と感情についての当時の身体理解など、複合的な要因があることを明らかにした。
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