研究課題/領域番号 |
25370873
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
青谷 秀紀 明治大学, 文学部, 准教授 (80403210)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 都市 / 贖宥 / 聖年 / ブルゴーニュ公 |
研究概要 |
2013年度は、ブルゴーニュ=ハプスブルク期ネーデルラントの中心都市メヘレンの宗教儀礼や祝祭に焦点を絞り考察を行った。15世紀半ば、メヘレンでは、ローマの聖年を引き継ぐ形で巡礼者たちに全贖宥を付与する期間が設定され、都市はブルゴーニュ公国内の聖地、“小ローマ”と化す。このメヘレンにおける聖年の延長は、ローマ教皇庁のみならず世俗君主であるブルゴーニュ公によっても認可される必要があり、交渉の過程では都市政府、君主、教皇庁の間で様々な駆け引きが展開された。これまでにも、この聖年の延長をめぐるこうした三者間の交渉については知られていたが、それがブルゴーニュ公あるいは都市のいかなる政治的・社会的・宗教的事情のもとに展開されたのかについては考察されてこなかった。2013年度の研究は、この点を様々な史料に基づいて解明することが目的であった。 具体的な内容は以下の通りである。1440年代、メヘレンの都市内でフランチェスコ会が組織の改革をめぐって分裂し、市民もこの紛争に巻き込まれてゆくが、都市政府は積極的にこうした事態の収拾を図る。また、君主は、都市内における宗教的権限を手中に収め、都市支配を確固たるものにしようと、この修道会及び都市内部の分裂に、度重なる介入を試みる。従来の研究では、こうした都市内部の宗教的・社会的紛争及びこれへの君主の介入といった現象が、聖年の宗教的イヴェントとの関連で理解されることはなかったが、本研究では都市会計簿史料や書簡など各種史料を調査することで、両者が密接に連動していることを明らかにすることができた。都市政府が大々的な宗教的イヴェントにより共同体の分裂を回避しようと試み、君主もまた宗教的領域にその権威の浸透を図ることで市民の内面的レベルから都市支配を強化しようとするなか、大きく揺れる都市アイデンティティのあり方をここに確認することができるのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、これまでのところ研究目的・研究計画に沿う形で、おおむね順調に進展しているといえよう。 これまで十分に研究されてこなかった15世紀半ばの都市メヘレンの社会的・文化的側面に関して詳細な分析を行った本研究の成果は、2013年8月に行われたシンポジウム(第8回日韓西洋中世史研究集会)における口頭報告を経たうえで、2014年3月に韓国で刊行されたJournal of Western Medieval History, 33で英語論文として発表された。また、メヘレンの宗教的イヴェントを引き継いだ1460年代のヘントの事例についても、イタリアのViella社(Rome)より2014年3月に刊行された論集Political Order and Forms of Communication in Medieval and Early Modern Europe, ed. Y. Hattoriに収録された英語論文で詳細に論じている。 こうした点から、本研究の計画は、これまでのところある程度達成されたと評価してよいように思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2013年度の研究により明らかとなった、宗教的領域で確認される都市アイデンティティのあり方とは別に、メヘレン市民の歴史的アイデンティティに考察を加えてみたい。その際、15世紀後半に編纂されたと思われる都市年代記が分析対象となるだろう。この『メヘレン年代記』については複数の写本が残されているが、その記述が1477年のブルゴーニュ公シャルル・ル・テメレールの死で終わっていることから、同史料の成立を考えるにあたって、都市のみならず君主政治の動向をも考慮に入れねばならないことは容易に予想できよう。筆者がこれまで研究してきたフランドルやブラバントの領邦年代記とも比較しつつ、市民の歴史的アイデンティティが君主家系との関連のなかで、どのような様相のもとに表出を見るのかが問題となるだろう。最終的には、こうした点を文書館における史料の比較調査によって明らかにしたうえで、これを、2013年度の研究成果である市民の宗教的アイデンティティの様態といかに整合的に理解できるのかといった点に検討を加えることが具体的な目標となろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年度は、研究計画立案時には予期していなかった家庭の事情により、予定していた海外及び国内での史料調査を十分に行うことができなくなった。これにより、予定されていた分の出張旅費費用が次年度に繰り越されることとなった。 夏あるいは春の長期休暇中に、当初の予定より長めあるいは多めに海外及び国内出張を行うことで、次年度使用額を有効に今後の研究へ役立てたいと考えている。
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