本研究では、中世後期、とくにブルゴーニュ家及びハプスブルク家支配下の南ネーデルラントにおける、都市アイデンティティの形成や変容に考察を加えた。対立するにせよ友好的な関係を結ぶにせよ、君主と濃密なコミュニケーションを展開した都市を取り上げ、君主と市当局がそれぞれ、政治文化の領域において、どのように都市アイデンティティのあり方に影響を及ぼし、これを共同体の支配に利用しようとしたのかを明らかにした。その際、この目論見と、ときに呼応ながら、ときにずれを生じさせながら、市民諸集団のアイデンティティがどのように変容し、再構築されたのかにも充分配慮するよう試みた。
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