研究課題/領域番号 |
25370880
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
川浦 佐知子 南山大学, 人文学部, 教授 (30329742)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 米国先住民 / 記憶の場 / 史跡 / 部族主権 / シャイアン |
研究概要 |
本研究はアメリカ平原先住民であるノーザン・シャイアンの事例に焦点を当て、現代アメリカ合衆国における先住民の記憶の史跡化営為を検討することで、「記憶」と「歴史」の交差について考察を深めるものである。 平成25年度はノーザン・シャイアン保留地を基点とした夏季フィールド調査を行い、部族の伝統的世界観や伝説と所縁の深いベアビュート、ブラックヒルズ、ディシュミット湖を視察し、それぞれの場の景観や管理の現状について調査を行った。現地インタビュー調査では、部族の伝統儀式の継承に尽力してきたキットフォックス・ソサエティのメンバー、部族教育関係者、民俗植物学識者に対して聞き取りを行った。9月にはコロラド州デンバー国立公文書館において、ノーザン・シャイアンが関わったブラックヒルズ土地請求訴訟について史料調査を行った。同時に、国立公園局インターマウンテン地域事務局国定史跡担当者に対し、先住民による国定史跡化の動向について聞き取りを行った。 本年度調査の結果明らかとなった、意義ある重要な点としては以下の3点が挙げられる。1)1946年から1976年までの32年間存在したインディアン請求委員会は、先住民の土地返還請求を初めて直接的に扱ったものの、「土地請求」を「補償請求」にすり替える機能を果たした。2)先住民部族は訴訟が進行するなか、部族の継続的存在が証明、明示されることが部族主権保持のために重要であることを認識した。3)先住民の土地請求を精査するなかで収集された情報は国立公園局によって集約・管理され、そうしたデータが今日の先住民の史跡化営為を支えていると考えられる。 インディアン請求委員会における土地請求訴訟では先住民への土地返還は認められなかったものの、その後先住民部族は、国立公園局との連携のなかで記憶の史跡化という方策をもって部族の記憶を孕む土地の保全を図るようになったと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、予定していた現地調査、及び史料調査をほぼ予定通りに実施することができた。サウス・ダコタ州のブラックヒルズ、デビルズタワー、ベアビュート、及びワイオミング州ディシュミット湖の現地視察調査からは、先住民の聖地が州の観光資源となっている様が伺えた。先住民による部族記憶の史跡化の動きの背景には、国立公園局との連携をもって土地保全を行うことで、聖地が観光資源となることを未然に防ごうとする意図もあると考えられる。史料調査ではインディアン請求委員会における先住民の土地返還請求の詳細を検討することで、先住民部族がインディアン再組織法(1934年)以降、訴訟という形で合衆国と折衝を重ねるなか、近代部族となっていく様が明らかとなった。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、ローズバッド戦場国定史跡(保留地南)、ウルフマウンテン戦場国定史跡(保留地東)、メディスンディア・ロック(保留地北)を訪ね、それぞれの場の景観維持状況、土地所有の状況、国立公園局の管理の実際について調査を行う。上記の保留地近隣地の国定史跡化において、中心的働きを担ってきた部族歴史保存事務局、部族政府文化委員会のメンバーに聞き取りを行うことで、部族にとって国定史跡認定の過程がいかなるものであったのかを明らかにする。 平成27年度は、部族が祖先の埋葬地であると主張する保留地東隣接地オッタークリークの状況を視察するとともに、モンタナ州政府主導の下、現在進行中である石炭開発計画、及び関連鉄道建設計画の全体像を把握する。資源開発に対し、部族の国定史跡化による土地保全の試みはどのような効力を持ちうるのかについて検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
購入物品(書籍)の会計処理が当該年度末に間に合わず持ち越されたため、次年度使用額が生じた。 既に会計処理済みである。
|