研究課題/領域番号 |
25370889
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
定森 秀夫 滋賀県立大学, 人間文化学部, 教授 (90142637)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 金官加耶 / 大加耶 / 小加耶 / 阿羅加耶 / 高句麗 / 銅ふく / 集安 / 桓仁 |
研究実績の概要 |
加耶地域における高句麗系遺物に関する文献調査・現地調査を実施した結果、「研究目的」・「研究計画」に記述したように、加耶地域出土高句麗系遺物は極めて少なかった。日常的に使用される土器類に関しては、高句麗土器あるいはその影響を受けた土器は皆無であった。今後も出土の可能性は極めて低いと思われる。 馬具類に関しては、馬冑・馬甲・蛇行状鉄器などは従来から認識されているように高句麗製あるいはその技術で在地製作されたと思われる。金海大成洞29号墳などから出土した銅ふくは、従来北方系遺物として取り扱われてきた。高句麗でも吉林省集安禹山墓区で1点採集されていたことは知られていたが、高句麗以外での出土例が多いことから北方系遺物という認識が一般的であった。しかし、金海大成洞29号墳などの築造時期から推測すると、高句麗の勢力はすでに強大で、このような北方系文物の加耶地域への直接的移入は考え難く、高句麗を介した導入と考えるべきであろう。 すなわち、高句麗系馬具類・銅ふくなどは高句麗広開土王の400年南下政策との密接な関連を想定できる。しかし、日常的な土器類に高句麗の影響をほとんど見出すことができないということは、高句麗南下の実態の一側面を示していると思われ、このことはこの時期の加耶と高句麗との対外関係を考察する上で考慮すべき現象である。 遼寧省桓仁と吉林省集安の高句麗遺跡踏査などの中国現地調査は、ほぼ計画通り実施することができた。とくに集安博物館で、禹山墓区2325号墓から出土した土製煙突を実見することができた。これは、上部が笠状でハート形の透孔があけられた特徴的な形態をしていて、百済の最後の都であった扶餘陵山寺跡から細部は異なるが同様な土製品が出土している。加耶との直接的な関連性云々は現在のところ言えないが、高句麗・百済と加耶との対外関係を考える際には考慮に入れてもよい考古資料と言えよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度には、金官加耶・大加耶・小加耶・阿羅加耶の相互間の対外関係を、とくに陶質土器を中心に検討してみた。陶質土器を検討対象の中心とするのは、理由がある。この陶質土器は遺跡から必ず出土し、量的にも検討するに値するばかりでなく、それが有する地域差に対外関係を知る手掛かりがあるからである。すなわち、上記四加耶の陶質土器は形態・色調・焼成などに差異が見られ、区別が容易にできる。そして、補完的に装身具・武器・武具などの他の考古資料の地域差も考慮しながら、四加耶の相互関係を考察していくことができる。加耶地域でのこれまでの発掘調査は膨大な件数を数え、すべてを網羅することは極めて難しく、典型的な遺跡を抽出しながら全体を見通す方法を採らざるをえない。検討事例の一つとして、釜山九郎洞古墳群の考古資料を検討することで、四加耶間の相互関係を具体的に推測することができたので、平成25年度の研究目的はほぼ達成できたと考える。 平成26年度は、高句麗・中国南朝との対外関係を考古資料から検討することを目的とした。ただ、研究経費の都合上、中国南朝の現地調査は実施できなかった。この中国南朝の現地調査については研究経費の都合がつく年度に実施したい。文献調査・現地調査では、土器類などの考古資料に高句麗の要素を見出すことはできず、馬具類の検討も従来の説から抜け出るものを見出せなかった。しかし、高句麗に対する現地調査を実施することができたこと、銅ふくに関しては北方系遺物として認識はできるが、金官加耶からの出土は高句麗を介したと解釈せざるをえないことなど、平成26年度も当初の研究目的ほぼ達成できたとすることができる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究においては、平成25年度・平成26年度の2年間でおおむね研究目的・研究計画通りに研究課題が進展しているので、平成27年度以降も当初の研究計画にしたがって本研究を推進していく。ただ、この2年間で見落としている重要な発掘調査報告書や考古資料があることは十分私自身が認識しているので、対外関係を示す考古資料の事例集成およびそれに対する考古学的検討は継続して行っていきたい。 平成27年度は、百済と伽耶の対外関係の考古学的検討を計画している。研究目的で記述したように、加耶地域から出土する百済系遺物などの集成とその検討、そして百済から出土する加耶系遺物などの集成とその検討を行う予定である。 また、平成26年度に計画していて実施できなかった中国南朝に関する現地調査を、本年度の研究経費で実施可能であれば、1年遅れで実施したいと考えている。しかし、百済地域・加耶地域への現地調査との絡みもあるので、本年度も実施できなかった場合は次年度以降に実施したいと思っている。
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