研究課題/領域番号 |
25370896
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大谷大学 |
研究代表者 |
長友 朋子 (中村 朋子) 大阪大谷大学, 文学部, 准教授 (50399127)
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研究分担者 |
鐘ヶ江 賢二 鹿児島国際大学, 鹿児島国際大学博物館実習施設, その他 (00389595)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アジア考古学 / 日本:韓国 / 弥生時代~古墳時代 / 初期鉄器時代、原三国時代~三国時代 / 土器生産体制 / 窯 |
研究概要 |
本研究は、土器生産の規格化・専業化と社会構造の関係性を検討し、秦・漢の周辺地域である朝鮮半島および日本列島の社会変化について、生産体制から解明することを目的とする。焼成温度などを含めた窯構造の発達や系譜関係を解明するため、考古学的方法と理化学的方法の双方から検討をおこなう。当該年度は、主に以下の3つの作業をおこなった。 1.考古学的検討と胎土分析の基礎作業 土器生産の画期となる弥生時代終末期と古墳時代中期(窯導入期)に焦点をあて、複数の土器所蔵機関および研究者らと打ち合わせをし、胎土分析の準備をおこなった。また、窯の起源地である、中国東北部地方の土器についても試料提供をしていただいた。2014年度には胎土分析・解析をすすめ、関係研究者らとともに検討をおこない、成果を公表する予定である。胎土分析については、破壊できない資料が多い現状をふまえ、今後の研究も見据えて将来的に非破壊分析もおこなえるよう、分析をおこなう協力研究者と連携し、基礎データを作成する方向で計画している。 2.ローマ周辺地域の土器生産 本研究の対象とする時期とほぼ同時期にヨーロッパにおいて中心周辺関係を形成した、ローマ帝国周辺の土器生産についても検討するためドイツを訪問し、ローマ土器とその影響関係について情報収集をおこなった。ローマに征服されたブリテン島には多くのローマ窯が検出されるのに対し征服されなかったライン川以東ではローマ窯が導入されず、秦・漢の領域外の朝鮮半島南部や日本列島で窯などの技術を段階を経ながら導入する様相とは大きく異なることが確認できた(考古学研究会総会発表2014.4)。 3.土器製作村の調査 タイ北部の土器製作村(ハンケオ村)で追加調査をおこない、道具の変化が生産体制に影響を与えていない点、窯焼成のための外容器を野焼きで製作するという野焼きと窯焼き土器の共生などが確認できた(埼玉大学紀要)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、韓国において研究協力者および分担者と打ち合わせをおこなった。これをふまえ、本研究初年度の2013年度には、日本での胎土分析に関する準備として、関係研究者らと協力しつつ、研究を進めていく道筋をたてることができた。2014年度は、さらに日本で提供していただいた試料の分析、解析および検討と公表を関係者の方々と協力しながら順次おこなう予定である。 代表者は、日韓の土器生産体制との比較検討のため、ローマ周辺地域への土器製作技術および生産体制の影響関係について、ドイツにて予備的調査をおこない、一定の見通しをたてることができた。本研究の成果の総括として、日韓の土器生産比較をおこなう際、ローマ土器の生産に関する研究をふまえて、相対化したいと考えている。 さらに、調査蓄積のある、タイ北部ハンケオ村で追加調査をおこない、製作道具の導入の実態などについて観察およびインタビューをおこない、その成果を公表することができた。野焼き土器と窯焼成土器の共生についてもふれることができ、考古資料の土器生産の検討に活かせるものと期待できる。 以上のように、初年度の2013年度には、試料所蔵機関や研究者らとの調整をおこなうことによって分析の下準備をおこない、次年度以降の分析や検討がスムーズにできるような体制を整えた。また、総括にむけて、比較考古学的視点での考察に必要となるドイツ調査や、野焼き土器と窯焼成土器の共生に着目した民族調査など、予備的調査の実施をおこなった。当該年度は、2年度目以降の分析や検討、および4年度目の総括にむけての基礎作業および検討をおこなうことができ、当該年度の目標をおおむね達成することができたので順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度の業績をふまえ、2014年度は以下のように研究を進める。 ①日本で試料提供していただいた土器の分析、解析を分担者、協力者らがおこない、その結果をふまえて代表者と分担・協力者が関連研究者とともに考古学的成果と総合して検討し、その成果を公表する。韓国の協力者らが来日し、非破壊分析などの土器調査をおこなう(夏季予定)。②韓国での胎土分析を実施する。日本へ搬入された窯導入期における陶質土器の検討のため、3つの地域に焦点をしぼり、嶺南地域の土器分析を行う予定である(冬季予定)。③ローマ土器の周辺地域への影響関係について、2013年度の調査をふまえ比較検討をおこなう(考古学研究会4月発表・論文掲載予定)。④窯焼成土器と野焼き土器の共生に着目し、ミャンマーで民族調査をおこなう(秋季予定)。 2015年度は、2014年度に実施した韓国での分析の解析を協力者がおこない、代表・分担・協力者が関連研究者と考古学的成果も総合した検討と公表をおこなう。また、引き続き、日本での分析をすすめる。2016年度前半までに補足調査と分析検討を終了し、後半には成果の総括をおこなう。 なお、分担者・鐘ヶ江賢二と協力者・趙大衍とともに研究を遂行してきたが、2014年度から金虎奎(公州大学校・准教授)と三辻利一(鹿児島国際大学・客員教授)を協力者に加え、研究をさらに進める。金虎奎は文化財科学を専門としており、嶺南地域の土器分析の業績が豊富であるため、日本列島出土の陶質土器の起源地を検討するのに適切な分析成果を期待できる。将来的に非破壊分析がおこなえるよう、金虎奎と協力して分析を進める予定である。また、三辻利一も文化財科学を専門とし、日本列島での窯出土土器をはじめ(三辻2013『新しい土器の考古学』)、多くの実績がある。本研究の分析データを三辻氏の蓄積データと比較することで、大きな成果が期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
申請時には、当該年度から分析を実施する予定をしていたが、資料の破壊をともなう分析であるため、試料所蔵機関との調整や手続きには時間をかけしっかりとおこなう必要がある。現在、複数の機関と調整中であるが、試料提供までしていただき分析を実施できる段階の場合や、申請書を提出し許可を待っている状況の場合、資料の整理中であるため、資料の接合や実測作業が終わり、考古学的な分類を経た段階(次年度)に分析をおこなう予定の場合など、機関によって手続きの方法が異っていたり、また資料の状況によって、分析までの段階は様々である。しかし、いずれにしても、試料所蔵機関とのきっちりとした打ち合わせや調整が必要であり、また試料提供機関の研究者との協力が必須となる。そこで、当該年度は胎土分析の打ち合わせや所蔵機関との調整を主におこなうこととし、当該年度に予定していた分析費の一部は次年度送りとした。 次年度の土器分析計画は、次の通りである。夏季に金虎奎が3名の調査補助とともに来日し、代表者と非破壊の土器分析および試料採取をおこなう。京都と、可能であれば大阪での分析も次年度中におこなう。冬季には、金虎奎と代表者が河承哲氏の協力を得て、土器搬入の起源地と推測される韓国の嶺南地域の土器(3地域)の非破壊分析および試料採取をおこなう。また、このとき京都での分析結果をふまえた検討もおこなう。分担者・鐘ヶ江賢二と協力者・趙大衍は、当該年度に試料提供していただいた中国東北部の土器分析と解析をおこなう。 次年度使用額は、金虎奎と補助者3名が来日し、京都での試料分析を行う際に使用する予定である。渡航費と宿泊費を合わせると不足分が生じるので、これは次年度の予算でまかなう予定である。
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