研究課題/領域番号 |
25370898
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研究機関 | 鹿児島国際大学 |
研究代表者 |
大西 智和 鹿児島国際大学, 国際文化学部, 教授 (70244217)
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研究分担者 |
鐘ヶ江 賢二 鹿児島国際大学, 実習センター, 実習助手 (00389595)
竹中 正巳 鹿児島女子短期大学, 生活科学科, 教授 (70264439)
中村 直子 鹿児島大学, 埋蔵文化財調査センター, 准教授 (00227919)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 古墳時代 / 食資源利用 / 離島 / 貝塚 / 圧痕調査 |
研究実績の概要 |
1. 発掘調査の実施。昨年実施した鹿児島県甑島手打貝塚を営んだ人々の生業の一端を解明する目的で、水田の検出を目指した発掘調査を実施した。調査地点は手打貝塚から約200m離れた湿地帯である。ここに小規模なトレンチを2ヶ所設定して掘り下げを行い、水田層の検出を目指した。しかし、湧水点が高く十分な掘り下げができなかった。遺物の出土も少ないため時期的な把握も十分ではないが、古墳時代に遡る水田層の確認はできなかった。今後、採取したサンプルのプラント・オパール分析などを実施して、水田の有無を推定することになる。 2. ウォーター・セパレーション分析。手打貝塚より採取したサンプルについて実施した。2区のサンプルについても洗浄が終了し、分析を進めている。貝の分析では、ハマグリの占める割合が高いことを再確認したが、昨年度実施した1区と同様、層位によってその比率やサイズ、ばらつきに相違が見られることがわかった。貝資源利用のあり方を通時的に追求できる見通しを得ている。 3. レプリカ・セム法による土器の圧痕調査。鹿児島県種子島の弥生時代から古墳時代にかけての土器を対象に実施した。弥生時代中期から古墳時代にかけてイネが安定的に確認された。また弥生時代中期の土器からアワも検出した。甑島と同様、古墳が作られない地域の食生活の一端が明らかになったことは意義深い。 4. 土器の使用痕分析。本土地域の土器の使用痕の観察と記録化を進めた。土器の調理の際に受けたと思われるススやコゲ、被熱などの痕跡を写真や図面で記録し、土器がどのように煮炊きに使用されたかを復元作業中である。 5.人骨資料の分析。鹿児島県・宮崎県出土の古墳時代の人骨について分析を実施した。歯はエナメル質減形成の肉眼観察やデンプン分析、骨は手足の長い骨のハリス線の観察を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画した事項の多くに着手できた。貝層のサンプルについては洗浄、ソーティングを進め、貝の比率や組成の分析を行い、貝資源の利用状況について考察を進めた。また、その他の地域におけるレプリカ・セム法による土器圧痕調査を実施し、古墳が作られない地域における食用資源利用の事例を蓄積できた。これらの成果については学会などで報告を行った。 その一方で、まだ継続中であったり着手できていない事項も残っている。回収した微細試料のソーティング、貝層サンプルに対する種々の自然科学分析や、ソーティングした貝や獣骨・魚骨の同定などである。 以上の理由により上記の達成度の判断をした。
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今後の研究の推進方策 |
1. 発掘調査報告の作成。手打貝塚の発掘調査報告書の作成を行う。甑島の古墳時代のタイムスケールとなる土器編年はまだ行われていないため、土器の資料化と編年案の提示にも留意する。 2. 遺跡土壌のウォーター・フローテーション分析。手打貝塚のサンプルについて分析を進めるとともに、補足的に鹿児島大学構内遺跡の古墳時代住居跡から採取された土壌サンプルと、鹿児島県甑島の中町馬場遺跡より採取されたものも対象に実施する。サンプルの量が多いため、研究補助を雇用し分析にあたる。 3. レプリカ・セム法による圧痕調査および土器の使用痕分析。鹿児島大学構内遺跡から出土した資料について圧痕調査を行う。また、土器の使用痕分析を鹿児島大学構内遺跡出土資料、手打貝塚および甑島から出土した資料を対象に行い、ススやコゲの状態からどのような調理を行っていたのかを推定する。これらの資料について、残存デンプン分析を依頼して行い、調理された食用植物を推定する。 4.人骨資料および人骨関連遺物の分析。エナメル質減形成とハリス線の観察データを分析し、南九州に生活した人々の人骨からみた栄養状態を考察する。 5. 解釈に必要な各種自然科学分析を依頼、実施、およびこれまでの調査・分析結果を総合した当該時期の食生活の復元・相互の比較と背景の考察およびそのための方法の確立。これまでに実施した調査・分析結果および報告書から収集した情報を用いて、メンバー全員が議論し行う。研究成果を報告書に取りまとめ公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
委託手数料として、行う予定だった土壌サンプルのプラント・オパール分析や花粉分析、寄生虫卵分析などを実施しようとしたが、分析依頼のための調整を十分に行うことができず、分析を実施できなかったため。また、謝金を用いた土壌サンプルの洗浄・ソーティング作業を実施しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
自然科学分析および謝金を用いた土壌サンプルの分析はできるだけ早く依頼し実施する。報告書の作成を予定しているため、印刷費を計上している。その他の項目についても予定通り実施するつもりである。
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