最終年度に当たる平成27年度には、石器の使用痕研究を進めるとともに、これまでに取得した分析データを統合し、西アジア先史時代における石器利用の性格を理解することに主眼をおいた。使用痕分析では、狩猟具であった石鏃の使用状況をあきらかにするとともに、植物の収穫具であった鎌刃石器の利用頻度が時代と共に増加する様相をあきらかにしたうえで、当時の人々が狩猟採集の時代から続く伝統的な石器利用を数千年間維持し続けていたことを提示した。これにより、3年間の研究期間において当初の計画通り実施した3つの分析、蛍光X線分析による黒曜石石材の産地同定分析、電気炉および野火を用いたフリントの加熱処理実験、顕微鏡観察による石器の使用痕分析の結果が出揃い、実用的な石器研究の基礎データベースを提示することができた。 さらに、最終的な研究成果として、これらのデータを統合し、石材の獲得から石器の廃棄までの石器利用を1つの流れとして捉える視点から研究を進め、西アジア先史時代の石器利用の在り方を左右した要因の多くが、個々の工程における作業効率や機能的優位性ではなく、石器利用全体に通底する文化的嗜好性であることをあきらかにした。その結果、「先史時代社会を理解する手段として石器利用に関する徹底した基礎研究を実施し、石器利用における機能的側面と社会的側面を包括的に捉えた新しい石器研究法を提示する」という当初の研究目的を達成することができた。研究成果については、イギリス、オーストリア、ポルトガルで開催された学会発表によって公表するとともに、学術論文としてまとめ、国際誌に投稿した。
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