研究課題/領域番号 |
25370901
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 公益財団法人泉屋博古館 |
研究代表者 |
廣川 守 公益財団法人泉屋博古館, 学芸課(本館), 学芸課長 (30565586)
|
研究分担者 |
小南 一郎 公益財団法人泉屋博古館, その他部局等, その他 (50027554)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 高精細画像 / 文字輪郭線抽出 / 同一文字原型 / 文字製作規格 |
研究概要 |
泉屋博古館収蔵の有銘青銅器70点について、高精細画像を取得した。レンズと被写体との距離を80㎝に統一して撮影を実施することにより、ほぼ同スケールの画像になるようにした。 取得した画像は文字ごとに整理をおこなった。それらにテキスト情報を付し、文字のデータベース作成にとりかかった。さらに銘文に枠が存在するものは枠ごとのデータも併せて整理した。そして文字の輪郭線をイラストレーターでトレース抽出し、それを異なる器の同一文字に重ね合わせを試みた。 とくに12点セットで製作された戦国時代前期(紀元前5世紀末)の編鐘について検証をすすめた。基本的に青銅器は錆や金属腐食の影響で、表面状況が悪いものが多く、この編鐘についても一部文字が非常に判別しにくい箇所が散見する。これまで銘文研究で使用されていた拓本では判別できなかった文字細部についても、重ね合わせた文字輪郭線と高精細画像とを比較することにより、文字線と金属腐食とを峻別することができた。そして、12点セットのうちで、きわめて特徴的な文字製作規格が存在することが判明した。編鐘は12点がほぼ大小相似形で製作されているが(第1器が最大、第12器が最小)、いずれも文字列の周囲に銘文枠が存在する。この文字列と銘文枠について、第1器~第3器の3点、第5器~第10器の6点、第11・12器の2点が、それぞれ銘文枠・文字ともに完全に同一で、同一の原型から製作されたことが判明した。 銘文研究のなかでも文字の製作技法に関する研究では、高精細画像をもとにした文字輪郭線の抽出と重ね合わせが極めて有効な手段であると再認識した次第である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高精細画像の拡大画像は拓本と異なり、凹凸がカラー像で確認できるため、表面状態の悪い器の銘文観察に極めて効果を発揮し、1文字ごとの情報を正確に抽出することができた。さらにこの高精細画像は同一焦点距離での撮影によるため、ピクセル等倍時ほぼ同一スケールとなり、この点を利用して、イラストレータにより抽出した文字輪郭線をほかの器の同じ文字へ重ね合わせることが極めて容易であった。25年度はとりあえず1文字ごとの情報整理を目標としていたが、さらに同一スケールでの重ね合わせによる書体検討まで進むことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
殷周青銅器はきわめて長期間製作され、その銘文についてもヴァリエーションが豊富で、しかも時期によって内容、書体が大きく変化している。そのため形態的な検討を今後進めていくためには、検討資料数を増加させる必要がある。そのため出来る限り高精細デジタルカメラでの銘文撮影数を増やすべく、泉屋博古館以外の美術館・研究機関所蔵の資料を撮影する。そして銘文ごと、さらに1文字ごとにデータ整理を進めていく。併せてヨリ詳細な実体顕微鏡による細部状況の検証を行う。 また25年度に実施したイラストレーターによる文字輪郭線の抽出をさらにすすめ、出来る限り多くの資料の重ね合わせを実施する。さらに重ね合わせに加え、文字端部の調整、文字溝の形状などの検証も併せて実施する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当該年度には高精細デジタルカメラの撮影とともに、高精細画像の観察をもとにしてより詳細な実体顕微鏡による観察・撮影を計画していた。当初、泉屋博古館所蔵有銘青銅器の実体顕微鏡撮影を本年2月~3月にかけて予定していたが、泉屋博古館展示公開事業の都合で執行できなくなり、本年7月以降に延期となった。そのため、顕微鏡撮影に必要な作業人件費が発生しない事態となった。 次年度には、当初計画していた泉屋博古館収蔵品以外の美術館所蔵有銘青銅器の高精細画像取得に加えて、当該年度執行できなかった実体顕微鏡での観察・撮影を本年8月および12月に分けて実施する予定である。
|