2015年度の殷墟期青銅器銘文の文字形状検討に引き続き、2016年度は西周期の文字形状の検討、および銘文文字と同じ凹線で表現された沈線文様の比較検討を実施した。 まず西周期の文字形状については、これまで蓄積した高精細画像データをもとにして、時期毎の文字形状を比較したところ、前期から中期にかけては、殷墟期にみられた文字溝底がフラットで端部までフラットな状態を維持してほぼ垂直に立ち上がるタイプと、溝底がフラットで端部が先細りして傾斜しながら立ち上がるタイプとが併存していた。さらにそのうちの1例では、文字輪郭部分が表面側に盛り上がっている(めくれ上がっている)状況を確認した。これは消失原型に文字を彫刻した痕跡と考えられ、殷墟期より引き続き、消失原型を用いた文字鋳造が行われていたことを示す例といえよう。 西周後期の文字形状は、それまでの溝底がフラットなタイプに加え、溝断面がV字状あるいはU字状を呈する例を多く確認することができた。さらに泉屋博古館所蔵の鐘1点について、一部の文字を削り消してその上に新たに文字を彫刻した例を確認した。祭祀を執り行う二名の人物のうちの一名を修正しており、長期間の使用により祭祀を執り行う人物が替わったことを示している。この器の刻銘特有の刻み痕跡は、昨年度調査を実施した山西曲村晋侯墓出土鐘の刻銘に認められる痕跡と極めて類似していた。 さらに銘文文字と同じ凹線で表現された沈線文様の検証を進めるために、河南安陽殷墟出土鋳型の調査を実施した。鋳型上にあらわされた沈線文様部位(鋳型上では凸線になる)を精査した結果、凸線の輪郭に極めて細く薄い沈線があり、鋳造後の製品はその痕跡を磨き消していることが判った。また凸線の形状は頂面(鋳造品では溝底)が完全にフラットで、一部の青銅器文字の状況に類似するものの、大多数が異なる形状をしていることを確認した。
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