本研究は、朝鮮半島の甑の地域性を基に、日本列島の甑の系譜、さらにはそれを齎した渡来人の故地を解明することを目的とし、おもに以下の点を明らかにした。1)日本列島内で朝鮮半島系甑がもっとも多いのは中河内と和泉北部(陶邑とその周辺)である。2)甑の系譜で圧倒的に多いのは全羅道など半島南西部のものであるが、集落内では京畿道や慶尚道の系譜のものもあり、多様な出身地の渡来人が共存したことを示す。3)畿内が全羅道、すなわち百済・馬韓を中心とする地域が多いのに対し、岡山県では慶尚道、すなわち加耶や新羅に系譜が求められる甑が多い。これは畿内以外の地域も独自の対朝鮮半島交渉が可能であったことを示唆する。
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