本研究では,対内投資の拡大すなわち外資系企業の受け入れが地方経済の再生に有効であるとの問題意識にたって,日本とりわけ九州における外資系企業の進出経緯と効果について、聴き取り調査や行政資料などを駆使して、経済地理学の視点から検討した。 まず日本は,欧米の先進国から金融保険などの直接投資を受け入れているが,その残高は世界最低水準である。対日直接投資が少ない理由は,高コストと低収益性にあるが,近年,改善の兆しも見られる。外資系企業が地域経済に及ぼす影響は多岐かつ深きに及ぶが,大略,資本注入,地元企業への刺激,知識の伝播,雇用創出の4領域に区分できる。 九州地方には,2014年現在,約500の外資系事業所が立地している。出身国別に見ると欧米先進国が9割を占め,業務内容では営業・販売機能に特化し,立地地域別には福岡県に6割以上の事業所が集まる。外資系企業が九州経済に果たす役割は概して効果は低水準に止まっている。4領域の中では,地元企業への刺激はあるが,低次サービスが中心で,知識の伝播が起こりやすい高次サービスや部品調達面での連関が形成途上である。各企業の雇用創出は大きくはないが,外国人駐在員が少ないため日本人の経営国際化を促進する効果があるといえる。今後の受け入れ促進のためには行政の誘致政策が重要だが,現状は補助金などの低次政策が中心なので,地元人材高度化などの高次政策へのシフトが必要である。 このように日本の地方圏への外資系企業の進出は始まったばかりである。現状から判断して「効果が少ない」として切り捨てるのは容易だが,中長期的に効果を評価する視点も必要である。直接投資の受け入れは成熟した先進国経済が不可避に歩む途である。日本もその途を進み始めたところなので,それを「地方創生」の有効な手段とする道筋の研究を続ける必要がある。
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