研究課題/領域番号 |
25370918
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
山村 亜希 愛知県立大学, 日本文化学部, 准教授 (50335212)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 歴史地理学 / 景観復原 / 港町 / 都市景観 / 都市空間構造 / 近世化 / 景観形成プロセス / 川湊 |
研究概要 |
本研究は、尾張・美濃と周防・長門の2地域それぞれで(1)主要港町景観の近世化プロセスの復原と、(2)中世都市システムの近世的再編の検討を行い、(3)他地域における港町の近世化と比較して、各地域の特性を考察することを、研究期間全体の課題とする。 平成25年度は、第一に、尾張・美濃の考察に着手し、長良川の重要な川湊で、中近世を通じて発展を続けた岐阜において、上記課題のうち(1)の景観復原研究を行った。戦国期に美濃を支配した斎藤氏と織田信長は、それ以前より宿であった井口を城下町化し改修するが、その建設過程において、川湊は城下町の外に置かれ、景観上は城下町と港町が明確に分離するに至ったことを、復原図の作成を通じて論証した。この成果は地理学・歴史学の学会で2件の口頭発表を行い、研究論文してまとめ、すでに公刊した。 第二に、(3)他地域との港町の近世化プロセスの国際比較のための資料収集を行った。比較対象の一つは、強大な近世中央集権体制の確立によって、川湊・海港共に急激な近世化を経験したという、歴史的文脈が類似し、現状でもその景観の痕跡がよく残る、フランスの港町であり、具体的には、サン・マロ、ナント、ディナンなどのブルターニュ地方の港町である。もう一つの対象地は、中世より高度に港町が発達し、比較的緩やかな近世化を遂げたベルギーのアントワープ、ブリュッセルである。その結果、いずれの港町においても、地形の制約を受けて、中世的な都市構造をよく残しつつ、港湾部の肥大化や外周の強化を行って、港と都市の景観上の分離を遂げたことが推定された。近世化の結果としての景観は異なるものの、港と都市の分離という現象は日本と共通することを指摘しうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書には、平成25年度の課題として、(1)中近世日本の港町データベースの作成継続、(2)中近世岐阜の景観変遷プロセスの地図化、(3)フランスの主要中近世港町の古地図資料の収集と現地踏査を挙げた。このうち、(2)と(3)については、実績概要で述べたとおり、きわめて順調に、予想以上に研究を進展させることができた。 (1)は、具体的には、対象フィールドである尾張・美濃と周防・長門以外の日本の主要港町について、先行研究と景観復原の史資料を収集し、対象フィールドと比較可能にするための作業であるが、予想していた以上に、先行研究が全国的に少ないため、全国一律の指標に揃えたデータベースの作成には、若干の軌道修正を行う必要がある。とはいえ、本研究の中心課題は、(2)と(3)であり、(1)は最終的な景観比較の段階で必要となる情報であり、まだ時間的余裕はある。よって、研究全体としては、おおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、(1)中近世日本の港町データベースの作成継続、(2)尾張・美濃を対象とした中近世港町の景観変遷プロセスの地図化、(3)フランスの主要中近世港町の古地図資料の収集と現地踏査を、具体的な課題として予定している。 (1)に関しては、「現在までの達成度」欄に述べた通り、網羅的に全国港町の文献・史資料を一律に探索する方法を改め、主要な港町や比較対象として適当な地域に限って、重点的に探索を継続する方向に変更する。その中で、景観復原を再検討すべき港町や地域に関しては、可能な限り(1)(2)と平行して、復原研究を試みる。これは、具体的には近世化による著しい変化がみられた日本海岸の主要港町・酒田湊と、中世以来の構造を継承したと予測される石見の港町(温泉津・益田)である。 次に、(2)については、平成25年度の研究で得られた「城下町と港町の分離」という現象が、他の濃尾の近世化した港町に一般的にみられるものかどうかを検討するため、木曽川の川湊に近接する犬山城下町を分析対象にする。交付申請書では、平成26年度に尾張・美濃の中世都市システムの近世的再編を実証する予定としたが、平成25年度の研究によって得られた仮説・知見を検証し、補強するために、都市システムの再編については、平成27年度に延期し、当初平成27年度に行う予定としていた景観復原の事例研究を前倒しして行うこととする。 また、(3)については、平成25年度のフィールドワークで得られた推定を補強するため、平成26年度も歴史的文脈を考慮した上で国際比較可能なフランスの港町(川湊を含む)を選定し、資料収集と現地踏査を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
中近世港町のデータベース作成にあたっての資料整理と入力のため、人件費を100000円予定していたが、想定よりも先行研究を見出せる港町が少なく、文献・史資料の残る中近世港町が一部に偏っていたために、人件費は不要になった。また、その作業用に必要と考えていたノートPCや関連ソフトについても購入を見送った。 今年度は、データベース作成計画を一部修正して、比較対象港町・地域の重点化(酒田、石見)と、それらでの近世化の様相を明らかにする方向に転換する。そのための関連資料集と図書購入費が、当初予定していたより多めに必要となる。また、これらの国内港町への旅費が、当初予定していたフランス港町での資料収集・現地踏査用の旅費に加わる。
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