研究課題/領域番号 |
25370918
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山村 亜希 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (50335212)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 港町 / 空間構造 / 中世都市 / 景観復原 / 近世化 / 景観史 / 歴史地理学 |
研究実績の概要 |
本研究は、(1)主要港町景観の近世化プロセスの復原と、(2)中世都市システムの近世的再編の考察を行い、その成果をもとに(3)主要港町の近世化の様相を国内外の事例と比較して、その地域的特徴を明らかにすることを目的とする。 平成29年度は、出羽酒田を事例として(1)・(2)の実証研究を行った。酒田は、日本海における北前船の寄港地として著しい発展を遂げた近世港町である。その前身となった中世集落とは異なる場所に移転して、その後に発達した点から、近世の「ニュータウン」とも位置づけられる。この酒田の港町景観の形成プロセスを、後背地である最上川流域や庄内平野における地域構造の変化と関連付けて検討した。その結果は、以下の4点に集約される。①16世紀から17世紀にかけての最上川河口部一帯では、土砂堆積が進み、地形環境が大きく変わりつつあった。その変化に対応でき、かつ内陸交通路とのアクセスを重視した場所に、新たに酒田は移転したと考えられる。②移転先に、街道の結節点に近く、先行する城郭や町場との政治・経済的摩擦が比較的小さい場所を選んだため、酒田はそれ以前の集落構造や地形といった「しがらみ」にとらわれることなく、他の港町以上に人工的・計画的な街路形態となった。③16世紀末以降の庄内平野における画期的な用水システムの導入と水田一円化の進展、新田村落の形成といった地域構造の変化が、酒田の都市形成の大きな要因であった。④これに加えて、最上川舟運のインフラ整備と内陸水運の活性化という、もう一つ大きなスケールでの地域構造の変化が、酒田に都市発展をもたらした。このように、地域論的視点から酒田の港町を論じる実証研究により、都市景観の形成・発展は、村落や周辺の景観変化と連動するものであり、中近世移行期における地域構造変化の一部を担ったことを明らかにしえた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は研究の最終年度であり、(1)出羽酒田などの事例研究の蓄積とともに、(2)平成28年度に実施できなかったイタリア南部の港町の資料調査と、(3)研究の総括を行う予定であった。しかし、(1)と(2)に関しては実施できたが、(2)で得られた資料・フィールドワークの考察日本の事例との比較と、(3)港町景観の近世化プロセスに関する総括は、家族の都合による時間の制約上、十分に深められていない。よって、研究補助期間の延長を申請し承認された。平成30年度は、仮説の構築に必要な事例を補いつつ、景観の日欧比較と研究の総括を行う。
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今後の研究の推進方策 |
中世港町景観の近世化プロセスとそのメカニズムの解明を目標に、研究を総括する。現時点では、以下のような視点と研究課題の提唱を考えている。 本研究においては、美濃岐阜、尾張犬山、遠江二俣といった東海の大河川中流域における川湊を基盤とした都市が、武家権力による城下町化や近世初期の木材バブル経済の恩恵を受ける中で、いかに景観を変化させていったのかを明らかにした。これらの成果より、中近世移行期の環境変化のみならず、地域構造のみならずの変化、さらに武家権力の経済政策・軍事支配が、港町の都市景観にストレートに影響を与えたことは明確である。その点で不足している観点は、東海のような大河川の作る沖積平野を事例とすると、農村における集落景観や、地域の開発・開拓景観、幹線交通路に伴う集落再編と、港町との関係である。平成29年度には、東海とは場所を変えて、出羽酒田の都市発展を、庄内平野や最上川流域といった広域スケールの地域構造変化と関連させて、その形成プロセスを解明したが、このような視点・方法の研究を東海で行うことが必要であろう。 また、城下町と港町を、武家の町(政治都市)と町人の町(経済都市)のように、極端に二分する視点の危うさも、東海や酒田の研究から指摘できる。実際には、城下町化を経験することで、飛躍的に都市規模が拡大し整備が進む港町や、傍らに寄り添うように城下町が接する港町も多い。港町と城下町のカテゴリーは概念として便利であるが、都市景観の形成プロセスとメカニズムを解く上では、より実態に即した分析が必要となることが分かった。 これらの点をさらに深化させ、他の事例と比較した上で、東海(主に尾張)を事例として、単著(『まちの地域史(仮)』古今書院)としてまとめて執筆する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
家族の介護の都合から研究時間に制約が生じ、本来は平成29年度までに行う予定の、国内外の事例との比較及び研究の総括を十分に深めることができなかった。そのために、使用額に残額が生じてしまった。 次年度は、比較・総括研究を実施する。それに関わって、図書・文献資料の購入(物品費)とともに、比較対象地域の資料収集を行うために、旅費を使用する予定である。旅費は、主に国内の港町の資料調査や、中近世都市に関する研究集会参加のために使用する。時間的に可能であれば、東海の都市群と同様に、大河川の中上流域で川湊を中心とした中世都市が特定の地域産業とともに近世化した事例として位置づけられるフランス・ブルゴーニュ地方の資料調査も検討している。
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