本年度は事業最終年度にあたり,これまで実施してきた各種調査・分析の結果から,都心居住を選択した若いファミリー世帯の住まいの戦略を考察するとともに,こうした新しい居住スタイルが大都市圏の居住地域構造にもたらす影響について議論した。主な論点は以下のとおりである。 (1)当該世帯では世帯収入に対する妻の収入の寄与率が高く,都心居住における共働きの存在感が高まっている。共働き世帯では,育児や家事を分担する夫が多く見受けられ,また比較的通勤時間は短縮されるものの,夫の帰宅時間は調整困難であり,それゆえ妻への負担の集中は避けられない。したがって女性の就業継続にはワークスタイルの改善が最も求められる。 (2)当該世帯では東京圏出身者の割合が高く,彼らにとって「(夫と妻双方の)通勤利便性」と「親族との距離」が育児と就業を両立させる居住地の選択理由となっている。しかし親族サポートは,病気や出張など緊急時の代替的サポートの意味合いが強く,日常的なサービスを提供する保育所などの公的サポートの役割を代替するものではない。 (3)2000年代前半,これまで都心部では見られなかった安価なファミリー向けマンション物件が大量に供給され,それによって都心居住の潜在的需要が高まった。しかし2000年代後半になると,東京への人口や機能の集中もあって住宅価格は上昇し,今後もしばらくその趨勢は変わらないと考えられる。したがって都心居住を選択するためには,それ相応の収入の確保が求められ,共働きであることの必然性がますます高まると考えられる。
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