本研究は、東南アジア島嶼部とくにフィリピン南部に位置するスールー諸島と周辺地域における真珠など特殊海産物の生産と利用に関して関係する各地との国境を越えた流通などの関係などを含めて人類学的に調査研究を実施することを目的としている。その際の研究手法としては人類学的なフィールド調査に加えて、 19世紀以前から20世紀にかけてのアジア各地における特殊海産物の生産と利用の歴史的背景などに関しても文献調査等を行ってきた。 平成30年度においては、前年度までに収集した資料の整理・分析作業等を中心に国内(神戸)とフィリピンにおける補足調査を実施した。特に、最終的な成果出版のために、これまでの調査で得た真珠をめぐる知見との比較のため、スールー諸島をはじめとする東南アジアにおける真珠やシロチョウガイの貝殻など関連する海産物の生産・利用状況の事例に関する実地資料等を、中東や南アジアなどにおける事例に関する文献資料等とも比較検討する作業を行った。こうした比較参照の作業を通じて 、地域間での共通点と差異を検証した。また、いずれの場合においても真珠や干しナマコ、鯨肉などの特殊海産物などの「もの」やその生産の技術が、国境を越えて各地に移動し、旅し、そして現場 の環境などに応じた変容を遂げてきた。本研究では東南アジア地域と日本などを含む域外の間のこうした「もの」と「ひと」(技術者)そして技術それ自体の移動のネットワー クについても実地データと文献資料の両方から分析を行った。
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