昨年度の3月に行ったスリランカ調査で得た資料(現代芸術作品と作家、近現代に作成された仏教寺院壁画及び関係者のインタヴュー)の整理と翻訳(シンハラ語→英語)をまず重点的に行った。この資料及びこれまでの調査結果をもとに研究論文(査読付き)を執筆、国立新美術館研究紀要に掲載された。 暴力、暴力的状況の経験がアートに表象される際の比較と共通項を明らかにするために、シカゴ市にあるThe Art Institute of Chicagoにおいて、世界戦争の戦間期とアメリカの世界恐慌の混乱時に画かれたアメリカン絵画展"American Art after the Fall"および、広島市立現代美術館で開催された特別展「戦争と復興;激動の時代に芸術家はなにを描いたのか」を視察し、同美術館の担当者および参観者にインタヴューを行った。2017年7月には国際博物館会議ミラノ大会に参加し、戦争、暴力関係の美術・博物館分科会に参加し、意見交換を行った。3年間の研究の総括として2017年3月にはスリランカを訪れ、今後、書籍出版のための必要資料を収集しインタヴューを行った。 なお最終年である本年度は、学会発表に代えて、ポンペウ・ファブラ大学(バルセロナ、スペイン)および中文大学(香港)から招聘を受けた講演、講義において本研究の成果の一部の発表を行った。 こうした調査と報告、意見交換において、スリランカの特殊状況による問題群および、暴力あるいは暴力的経験をへた地域やアーティストによる表象における問題群の相違への多くのヒントを得ることができた。加えて、スリランカの寺院壁画そのものが19世紀末からヨーロッパおよびインドの影響を強く受けていることが確認でき、現代アートにおいてもその反映が見られることが確認でき、今後の研究の展開への重要なヒントとなった。
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