本研究課題に掲げた移住開拓島とは近代以降に移住者の開拓によってその集落が形成された島のことである。本研究計画は、移住開拓島を定住化・無人島化に分類して、 移住後に構築される生業活動を 「持続する生業体系」 と 「途絶する生業体系」 とに対比させてとらえて、 移住社会の生業活動について調査・研究を進めるものである。 今年度は最終年度であるため、これまでに得られた本研究成果のまとめや他地域との比較を図るとともに、今後の展開を模索した。調査地としては、瀬戸内海地域(倉敷市、尾道市、姫路市)のほか、鳥取市、山口県下関市、山形県酒田市・山形市、福岡県唐津市・小倉市、佐賀県佐世保市において、補充調査および文献収集調査をおこなった。 本研究を通して、移住開拓島に展開される生業が 「持続する生業体系」となる特徴として、海縁ネットワークの形成という観点が提起される。つまり、定住生活を持続させ安定させるのは、周辺社会との間に張りめぐらされた多様な海縁ネットワークによるものであること、移住先の定住生活を成立させる生業体系とは外部との関係で構築される海縁ネットワークの体系であること、移住開拓島の定住化を成立させるのは、ほかの地域に依存ぜずに独自にもっている海縁ネットワークを作り出す生業手段・技術であること(たとえば小手島のタコ漁の漁獲技術、青ヶ島のカツオ節製造技術)という結論を得た。さらに、これまでの研究代表者がおこなった移住開拓島に関する研究成果を『移住開拓島の民俗学』と題して報告書にまとめた。そこでは、移住開拓島で得られた視点は、島嶼地域だけでなく新興住宅地など都市形成の把握にも展開できること、「同時代生活誌」としての現代民俗学の課題にも結びつくことなど、今後の研究の方向性をも述べた。
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