本年度は、モロッコ南西部で19世紀以降に教勢を拡大したスーフィー教団ダルカーウィーヤに関わる宗教知識人などが作成したベルベル語の宗教詩を対象とした調査・研究を実施した。 近年、北西アフリカ圏域で拡大しているアマズィグ運動(ベルベル人の先住民運動)では、ベルベル系知識人による翻訳活動は、ベルベル人固有の言語・文化・伝統に関わる活動とみなされ、アラブ人との民族的差異が強調される傾向がある。 しかしながら、調査から明らかになったのは、ベルベル語による宗教詩の編纂・翻訳活動は、アラビア語における詩の規則の援用、アラビア語の語彙の導入に基づくもので、アラビア語を否定するのではなく、むしろアラビア語で編纂された宗教諸学のテクストなどへの一般住民の接近を企図したものであるという点である。 この点を踏まえて、本年度には、ベルベル系宗教知識人が進めて来たアラブ/ベルベルという民族的差異を乗り越える試みを、民族的差異を強調するものとして捉え直そうとするアマズィグ運動の民族認識の生成と展開を、フランスによる植民地支配期の民族政策との関連から明らかにした論考を上梓した。同稿は、2017年に刊行される論集『先住民からみる現代世界』(木村真希子・深山直子・丸山淳子編、昭和堂)に収められている。 また、本年度には、昨年度に続き、宗教的知識のローカル化と密接に関わる「民衆文化」論を再検討すべく、国際シンポジウムを企画・組織し、人間文化研究機構ネットワーク型基幹プロジェクト「現代中東地域研究」民博拠点とフランスの社会科学高等研究院の共催の下、国際シンポジウムLa culture populaire au Moyen-Orientを2017年3月にパリで開催し、研究成果の還元、さらに国際的な共同研究の組織化に努めた。
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