本研究課題の主な目的は、戦前・戦中期、日本軍が中国大陸において展開した回教工作(イスラーム工作)の具体的状況を文献調査およびフィールドワークにもとづいて把握・検討し、日本軍関係者とムスリム・コミュニティとの関係性に焦点をあわせ、回教工作の全体像および地域的特性を歴史人類学的視点から分析することにある。 2015年度は、過去2年の基礎的な作業をふまえ、日本国内および中華人民共和国の教育・研究機関(例えば、早稲田大学図書館、内蒙古科学技術大学)において、日本の回教工作に関連する文献資料を収集・整理し、日本の回教工作の全体像およびそれをとりまく情勢を俯瞰的に把握するよう努めた。とりわけ、日本軍特務機関が「蒙疆」に設立した西北回教聯合会の機関誌『回教月刊(西北鐘声)』の掲載記事を整理・分析できたことが大きな収穫であった。 文献調査と並行して、中華人民共和国内モンゴル自治区フフホト市および包頭市において清真寺(モスク)を訪問し、日本軍関係者と接触したことがある情報提供者やその遺族(回族)から植民地支配に関する体験談を聞き取り、既存の文献調査では解明しづらい出来事の具体的状況を調査・記録した。「歴史の生き証人」は現地では次第に減少しつつあるが、関係者の遺族や家族・親族から日本軍占領期の状況について聞き取りは現在も可能であり、日本軍特務機関と接触のあった人物の遺族を中心として聞き取り調査を実施し、日本軍占領に対する現地住民の反応を記録することができた。 これらの文献調査およびフィールドワーク(聞き取り調査)の結果、年度末に成果報告書『日本の回教工作とムスリム・コミュニティの歴史人類学的研究』を冊子として刊行し、中国・日本近現代史に研究に従事する専門家に配布した。
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