2015年度は、共同研究の成果報告を2度行なった。1度目の報告テーマは「 台風に対応する社会と文化:沖縄・奄美・台湾の比較研究」文化人類学会第49回研究大会分科会( 大阪国際交流センター、2015. 5. 25)と設定し、①沖縄・奄美・台湾の台風災害の歴史的実態の解明、②各地域社会の台風への対応状況とその変化、③台風対応の社会文化的コンテキストの比較の、3つの課題を追求した。個人報告のタイトルは以下の通りである。玉城毅「 台風とのつきあい方: 沖縄戦後史における政策過程と社会過程の間」、西村一之「台湾東海岸における台風の影響とその対応 -先住民アミの家屋形態と社会の変化から」、藤川美代子「台風の被害を受け止めるシマ:奄美群島における家屋の変遷と社会の変化」、山田浩世「前近代の沖縄における災害と『親疎無き』配分:『伝統的』相互扶助の成立背景」。 2度目の報告も同じテーマと課題を掲げて行なったが、これは、先の文化人類学会分科会に対するコメントを踏まえて再構成したものであり、各報告者は、より細かな資料を提示して発表した(「台風に対応する社会と文化:沖縄・奄美・台湾の比較研究」危機と再生の人類学 公開研究会(南山大学人類学研究所、2015.10.24)。 これらの研究会を通して明らかにしたことを要約すると次のようになる。 ①台風頻襲という共通の自然的基盤の上で、それぞれのやり方で台風に対応してきた。②1960年代・70年代以降、経済基盤が急速に変化する中で、それと連動した動きには各地で差異( 家屋構造の変化・社会関係資本の発現)がみられる。③1960年代・70年代以後、沖縄と台湾では建築資材としてのセメントが流通してコンクリート建て家屋が増え、台風に集団的に対応する必要はなくなった。その一方、奄美の農村では、「伝統的」家屋が目立っており、社会関係資本は基本的に機能し続けている。
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