2016年度は文化人類学における家族史と近代化に関する図書文献を収集しつつ、その内容を吟味し、主権国家の周辺に位置する少数民族としてのイバン人、ボルネオ島西部のサラワク州における最大人口集団としてのイバン人という、彼らのおかれた二律背反的な政治状況の考察を進めた。その中でイバン人の教育および行政エリート層への着目することの必要から、旧博物館長でオーストラリアで博士号を取得したK氏、イバン出身の女性としてはじめて医学以外の博士号をドイツにおいて取得したS・E氏などのライフヒストリーを整理した。これらはいまだ公刊できる段階には至っていないが、近い将来両氏の了解と積極的な参加の下での公刊の途を探りはじめた。 一方、本研究の主眼は、エリート層よりも一般のイバン住民のもとでの近代化を探ることにあるので、幾分断片的にはなりがちだが、計画最終年度である今年度も彼らの家族史に関する聞き書き調査を継続した。8月後半には、サラワク州スリアマン省在住のイバン人を集中的な調査対象とし上記目的の調査を行った。マレーシアへの往途、シンガポールで同地在住のイバン人知人と会見し、同地への移住イバン人の動向について聞き取り調査を行なった。また現地の研究協力者であるチャイ博士(サラワクマレーシア大学上級講師)とともに、同省Engkelili町の現地華人とイバン人の社会交渉の実態を調査した。また12月後半には、シブ省およびサラトック郡在住のイバン人を再度の集中的な調査対象として調査を行った。シブ市近郊のカノウィットを中心とするイバン村落の住民集住家屋の構造的近代化をチャイ博士とともに調査し、またシブ市内在住の現地華人とイバン人の社会交渉の実態を調査した。 家族史資料の収集自体は順調に推移したが、イバン語による聞き書きを日本語として完全整理するには至っていない。
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