研究課題/領域番号 |
25370949
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
上杉 富之 成城大学, 文芸学部, 教授 (00250019)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | メディカルツーリズム / 不妊治療 / タイ / アメリカ / LGBT / クイア(queer) / 親子 / 家族形成 |
研究実績の概要 |
本研究は、近年ますます盛んになりつつあるメディカルツーリズムとしての不妊治療に注目し、現在世界的な規模で進行している親子・家族・結婚観及び制度の変動の実態を実証的な調査を通して明らかにすることを目的としている。 本年度はまず、関連著書や論文集、学術論文等を収集するとともにそれらを批判的に検討して理論的な整理を行った。その上で、2015年8月にはタイのバンコクで日本人不妊治療患者(客)を主要な顧客とするタイ・バンコクのメディカルツアー会社、GID(ブレンダ)を訪問し、同社の代表者ならびにコーディネーターにインタビューを行い、タイにおけるメディカルツーリズム、特に卵子提供や代理出産等の不妊治療についての概要を聴取した。また、9月にはアメリカ・サンフランシスコの不妊治療斡旋会社、IFC(International Fertility Center)やLGBT(Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender)ないしクイア(queer)の家族形成を支援するNGO、Our Family Coalition、LGBT歴史博物館等においてインタビュー調査を実施した。さらに、11月には、日本の新宿で性同一性障害者の子作り等をサポートするG-Pit Net Worksの代表者に対してもインタビュー調査を行った。これらの調査から得られた成果の一部は、11月29日に天理大学で開催されたAJJ(Anthropology of Japan in Japan)学会にて、”This Is a Usual Thing, Isn’t It?: Socio-cultural Implications of ”Co-parenting” Practiced by LGBTQs to Changing Family-Building in Contemporary Japan”と題して口頭で発表し、先端的生殖補助医療が社会や文化に及ぼす影響に関心を持つ日本内外の研究者と情報や意見を交換した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、タイにおける不妊治療を中心としたメディカルツーリズムの実態調査を集中的に行う予定であった。しかしながら、1)タイにおいても提供卵子や代理母出産等を用いた不妊治療は医学的、倫理的、政治的にかなり微妙な問題であり、インタビュー調査等に応じてくれるメディカルツーリズム斡旋会社や医療機関等を探すのが困難となったことや、2)平成25年~26年にかけてタイの首都バンコクを中心にして反政府暴動が激化し、調査研究を実施すること自体が困難となった。そこで、急遽、当初の計画を若干変更し、平成27年度より、生殖補助医療を利用したLGBTカップル(クイア・カップル)らの家族形成が近年特に顕著となりつつあるアメリカ・サンフランシスコでの調査研究に力点を移した。こうしたことから、本研究は当初の計画よりやや遅れる結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
タイ・バンコクでの不妊治療に関する現地調査やアメリカ・サンフランシスコでの生殖補助医療を利用したLGBTカップル(クイア・カップル)の家族形成に関するインタビュー調査等を通してある程度の資料がすでに得られたので、現地での調査研究はいったん終了する。今後は、これまでの調査研究で得られた情報や資料をまとめ、日本内外で公表・発信することを試みる。その際、近年のメディカル・ツーリズムや生殖補助医療、LGBTカップル(クイア・カップル)の家族形成等の世界的な動向を参照しつつ、評価・分析を行う。また、研究成果を日本語だけでなく英語でも口頭発表や論文として公表し、日本内外の研究者の評価を仰ぐこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、タイにおける不妊治療を中心としたメディカルツーリズムの実態調査を集中的に行う予定であったが、1)タイにおける提供卵子や代理母出産等を用いた不妊治療に対する政府や一般の人びとの反応の急激な悪化や、2)タイの首都バンコクを中心にして勃発した反政府暴動の激化等により、調査研究を実施すること自体が困難となった。そこで、当初の計画を若干変更し、平成27年度より、生殖補助医療を利用したLGBTカップルないしクイア・カップルらの家族形成が近年特に顕著となりつつあるアメリカ・サンフランシスコでの調査研究を急遽開始した。しかしながら、研究最終年度に当初計画を変更したため研究成果のまとめや公表計画に遅れが生じ、その結果、次年度使用額が生ぜざるを得ない結果となった。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究では、不妊ツーリズムのみならず、それと同時ないしそれに付随して進行するLGBTないしクイア・カップルの家族形成についてタイとアメリカ、および日本で実地調査を行った。日本ではこれまでこの種の報告がほとんどなかったので、今後は、上記の調査研究成果をまとめ、和文ならびに英文で、口頭発表および学術雑誌論文等として公表する予定である。そこで、残りの研究費は、近年の関連研究を批判的に検討するための参照文献の収集・購入費用として、また、英語口頭発表原稿および英語学術雑誌原稿を作成し、公表するための英文校閲費用等として効果的に利用する予定である。
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