本研究は、近年ますます盛んになりつつあるメディカルツーリズムとしての不妊治療に注目し、現在世界的な規模で進行している親子・家族・結婚観及び制度の変動の実態を、タイやアメリカにおける実証的な調査を通して明らかにすることを目的として実施した。 2015 年にはタイ・バンコクのメディカルツアー会社(GID)でインタビュー調査を行い、タイにおける卵子提供や 代理出産等の不妊治療等について概要を聴取した。また、アメリカ・サンフランシスコの不妊治療斡旋会社(IFC)やクイアの家族形成を支援するNGO(Our Family Coalition)等においてインタビュー調査を実施した。さらに、日本の新宿で性同一性障 害者の子作り等をサポートするG-Pit Net Worksでもインタビュー調査を行った。これらの調査から得られた成果の一 部は、同年11月29日に天理大学で開催されたAJJ(Anthropology of Japan in Japan)学会にて口頭で発表し、先端的生殖補助医療が社会や文化に及ぼす影響に関心を持つ日本内外の研究者と情報や意見を交換した。 以上のごとく本研究はおおむね順調に進んでいたが、研究期間の半ば以降、タイにおける反政府デモの発生や軍事クーデターの勃発、戒厳令の発令等の政変や、日本人男性がタイ人の代理母に多数の子どもを産ませていたという国際的スキャンダルの発覚等のためにタイでの現地調査が困難となった。そのため補助事業期間を1年間延長したものの事態は改善せず、結局、 最終年度の2016年度は関連著書や論文集、学術論文等を収集するとともにそれらを批判的に検討して理論的な整理を行うにとどまらざるを得なかった。
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