研究課題/領域番号 |
25370952
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
西村 一之 日本女子大学, 人間社会学部, 講師 (70328889)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 漁民 / 移動・移住 / 台湾 / 沖縄先島 / 漁撈技術 / 植民地経験 |
研究概要 |
東アジア地域における漁民の移動と移住を扱う本課題では、台湾東海岸にある一港町を研究の対象として定め、そこを往来する人びとについて、人類学的臨地調査と文献研究を行っている。 調査地は、1920年代より台湾東海岸で進められた植民地開発の一環である漁業振興により築かれた「移民村」を基にしている。関連する文献資料を通じて、その設立の経緯やそこに集まる漁民の来歴、移民が携えてきた漁撈技術について明らかとした。日本による植民統治末期、台湾東海岸には3つの移民村が設けられ、北東部の漁業地である基隆とも合わせ、漁民たちはこれらの場所を移動して漁業を営んでいた。「移民村」をはじめとする漁業地には、開発事業に応じてやってきた公的な者以外、漁業への参入を目的として私的にやってきた漁民が多く暮らした。彼らについて、文献資料を通して明らかにするだけでなく、調査地にある「移民村」とその周辺に暮らした人々に対するインタビュー調査を、台湾及び沖縄先島で実施した。調査地の住民は漢人と先住民アミからなり、日本からの漁業移民と漁撈を共にするだけでなく、日常生活レベルでも交流があった。臨地調査では、漁業領域をはじめとした生活レベルでの植民地経験を明らかとした。また、沖縄先島で行った隣地調査では、台湾東海岸との間を行き来した沖縄漁民について、当時を知る人びとに台湾での生活実態や周辺海域での漁撈実態を知ることを課題としたインタビューを行った。 また、戦後、中華民国となった台湾東海岸とアメリカ軍政下にはいった沖縄先島との間に広がる海に境界が生まれ、双方の政府が沿岸管理を強化する中で行われた、両地域の漁民の往来について、海域利用という観点からインタビュー調査を基に明らかにしようとしている。同じ海域を利用する漁民同士の結びつきについて、直接的交流の経験を明らかとし、その意味を生活者の視点を踏まえ、より深い考察を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度においては、研究課題に基づく臨地調査を台湾東海岸(台東・基隆)および沖縄先島(石垣・与那国)でそれぞれ実施した。また合わせて、関連する文献資料の収集をおこなった。台湾での臨地調査では、東海岸の港町を往来した漁民に着目、漁港を利用するために台湾内外から集まる人びとの移動と移住について、台湾漁民(漢人と先住民アミ)に対する調査を行った。この中で日本植民統治末期から戦後直後にかけて滞在した日本人漁民特に沖縄先島の漁民について、彼らと漁撈を共にした経験を持つ台湾漁民へのインタビュー調査を行っている。また、沖縄先島では、台湾での生活経験を持つ人びとに対し、漁業領域における台湾住民との共同について調査を継続実施している。さらに、それぞれの地に暮らす漁民による、戦後国境海域となっていく東シナ海への出漁の詳細およびこの海域に対する認識について明らかにしようとしてる。なお、昨今の国際情勢を踏まえ、増加する台湾外からの出稼ぎ漁民に焦点をあて、中国大陸からの出稼ぎ、さらには存在感を増しているインドネシアおよびフィリピンからの出稼ぎ漁民に関連した調査も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、台湾東海岸を行き来した漁民たちについて、東シナ海域がより明確に国境海域化していく過程との関連に比重を置いた調査を実施する。このため、1960年代以降の東アジアにおける国際関係の変遷について、日本本土、沖縄、台湾、中国、米国が、東シナ海の管理に対し、どのように対処してきたのかを踏まえ、漁場利用の当事者である台湾漁民と沖縄漁民の漁撈実態および東シナ海域への認識について考察を進めていく。この時、漁場利用の実際を手掛かりとするため、この海を取り囲む地域の漁民が作業する範囲と漁獲対象及び漁撈技術について調査を進め、またそこで起こる漁民同士の交流や相互認識を明らかとしていく。 また、1990年代以降台湾漁業の担い手として重要な役割を果たしてきた、中国大陸からの出稼ぎ漁民についてさらに資料を収集する。加えて、同時期より次第に存在感を増す東南アジアからの出稼ぎ漁民に対する資料の収集も補足的に行うこととする。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究課題の解明に向けた臨地調査の遂行に必要な日数を十全に確保することが困難な状況となり、使用額が想定を下回ったため。 研究課題の遂行に必要な隣地調査を早い時期からすみやかに行うとともに、資料の収集をより積極的に進める。また、収集したデータの分析に不可欠となる機器備品を充実化し、効率的な研究の実施に努める。
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