本研究は、東シナ海域を移動する漁民に着目した人類学的研究である。台湾東海岸にある一港町を主要な調査地とし、この町を往来する漁民について、人類学的臨地調査と文献調査を行った。東アジアの国際関係や政治経済の影響を受け、この海域に現れ変動してきた境界(国境)に応じて生活してきた台湾、沖縄、中国の漁民の姿を具体的に明らかとした。彼らは移動を通して、漁民としての同一性を形成する共に、強弱を繰り返す境界によってその移動が拘束されている。東シナ海域は、漁民たちにとって個別的な経験の束で満ちた場所であると同時に国家が考える空間でもあり、この二つがせめぎあっているのである。
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