研究課題/領域番号 |
25370953
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
中田 英樹 明治学院大学, 国際平和研究所, 研究員 (70551935)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | マヤ系先住民 / 新自由主義 / 多文化・多民族主義 / 家事労働(非生産労働) / 資本主義経済への再包摂 |
研究概要 |
2013年度は、研究課題に沿った当初の計画通り、アンティグア市を訪れ二回にわたって現地調査を行った。当市は、グァテマラ先住民社会の将来を占う試金石と位置づけられる。理由は第一に、首都圏への通勤圏にあるため、安悪化を嫌う富裕層が一層「逃げ」てくるとともに多くの貧困層先住民女性がその元へと家政婦労働者として搾取されると言った「新自由主義」と、第二に、先住民(とりわけ民族衣装を着たエキゾチックな女性)が出稼ぎに来ることを利用してのの観光産業活性化の要と言える「多民族共生主義」の、この両者が色濃く地域社会を特徴付けている地域だからである。ここで約10数名の先住民女性に対して詳細な聞き取り調査を行った。 また同時に、現地滞在期間、中田が以前所属していたグァテマラ国立サン・カルロス大学での研究者や博士課程の大学院生などと話し合う機会を設け、本科研のテーマと現在の進捗状況を説明し、さまざまなアドヴァイスを頂いた。 一方での日本国内における実績としては、すでに中田は単著論文、「新自由主義下の多文化グァテマラ現代社会と先住民女性 ─新たな底辺労働としての家事労働と伝統織物労働の再編をめぐる試論」、『PRIME』、第36号、明治学院大学国際平和研究所、査読有り、を2012年度末に発表しているが、これに平成25年度の本科研での、現地調査での新たな情報や、上記現地研究者からのアドヴァイスをもとに修正した改稿版が、(秋津元輝編、『中間圏:親密性と公共性のせめぎ合うアリーナ(仮題)』、京都大学出版会)に所収されることが決定した。現在脱稿し、編集者とのやりとりの段階にある。 また、NPO団体「市民外交センター」からも本科研のテーマに近しい内容での、大学教科書としての論集への寄稿を依頼され、グァテマラのみならず、日本のアカデミズムや一般社会へも、広く成果が還元されつつあると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2013年度は、現地調査地としてのアンティグア市や(たとえ最も危険と言わていようが)グァテマラシティといった、中田が以前長く暮らし安全状況をよく知っている地域で調査を行った。したがって上記記述のごとく、概ね、予定した研究は遂行できたと考える。 しかし、グァテマラはアメリカ合衆国という巨大な経済システムの周辺たる「メキシコ・中米」のなかでも、さらに最も「周辺」たる位置にある。とりわけ2008年の世界経済危機以降、(もちろん新自由主義の影響で)経済格差は広がり、治安は最悪なものとなっている。※外務省の海外安全情報のホームページでは、グァテマラ全土に対して「十分注意」の危険勧告が出されている。対象とするアンティグア市においても、したがって訪れる観光客は減少し、必然的にアンティグアに出稼ぎに来る先住民も減少した。すなわち聞き取りによる情報のさらなる獲得は今後困難になっていくことは、明らかであった。したがって2014年度の現地での研究作業が、同様に進むことは当然視できない。 だが代わって、当初想定していなかったポジティブなチャンスに恵まれた。偶然グァテマラで再開したメキシコ人の知人が水先案内人となって、メキシコ最大の観光地であるカンクンへ、本科研の研究テーマである、出稼ぎに行く内陸部の先住民女性を紹介して貰いつつ、数名の情報提供者(インフォーマント)の信頼を得ることができた。 また、メキシコにおいても(南部にはマヤ系先住民が暮らしていることもあり)十分マヤ系先住民に関する研究蓄積、相談できる研究者は存在する。調査対象地は今後の検討課題だが、実質的な研究の中身はいずれにせよ、計画に掲げた課題に向けて実質的には進展することと認識している。
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今後の研究の推進方策 |
外務省や現地日本大使館などが公開している安全情報などを十分に顧慮しつつも、基本的には当初の申請通り、グァテマラの先住民女性を対象としての研究続行を模索していきたい。 ただ、2014年度からは、上述のアンティグア市など巨大な家事労働を商品(サービス)労働商品化できる経済圏へと出稼ぎに来た先住民女性の、その「出稼ぎ」を支える出自の農村部への聞き取り調査を、当初の研究申請では予定していた。したがって、前欄で説明したように、治安が悪化するグァテマラの現在において、長距離の移動を伴う農村部への聞き取り調査は、よりデリケートな注意が必要になってくると思われる。 とはいえ、第一に、(中田の1999年からの経験上)農村部の先住民村落自体における危険度というものはきわめて小さい。問題は移動なのであるが、これも(近年のグァテマラにおいてはプライベートシャトルバスといった、観光客ができるだけ移動の危険を回避できるような)特別なサービスを利用するなどして、また、第二に、できるだけアンティグア近郊の農村からの出稼ぎ女性に焦点を当てる、あるいはより期待をかけている選択肢としては、現地の中田の旧来から親交のあった研究者が調査対象としてきた農村に(時には調査に同行するという形を取りつつ)焦点を当てていくといった方策を採りたいと考えている。 また、一方で、先述したメキシコのカンクンが位置するキンターナ・ロー州の、貧困な内陸部(高級観光リゾート地カンクンは海岸部にある)での、(本科研が対象とする同じ)マヤ系先住民への重点的な聞き取り調査・研究が可能かどうかを積極的に模索してみたい。こちらの方は、すでに地元先住民住民への挨拶などもスムーズに進み、かつ、この地域にメキシコシティから移住しようとしている知人が車を持っていることから、現地調査の安全性を鑑みれば、有力な選択肢になり得ると認識している。
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次年度の研究費の使用計画 |
約10%ほどの次年度使用額が発生したが、これは別欄に記したとおり、首都およびアンティグア市に調査の拠点を据え置き、比較的費用のかからない、現地研究者との会合や、現地インフォーマント確保などといった作業が中心となったためである。また、資料複製などの費用も、資料の存在の調査段階にあったため、実際の複写および郵送などの費用が少額になったこともある。 本年度は、9月より長期の現地調査を計画している。したがって2013年度か今年度への使用額繰り越しはこの長期調査において、十分に有効活用ができると考えている。 また今年度に関しては、2013年度の現地滞在での作業が下準備となっているので、十分に実際の聞き取り作業や研究発表などが展開されると考える。また、地方農村への聞き取りが、当初の計画通り主となるのであるが、別欄に記したように、移動にはますます治安悪化の危険性が伴うため、比較的料金の高いプライベートサービスなどを使用する必要性が生じると考える。この点に関しても、13年度からの繰り越し予算は有効に当てられると考える。
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