研究課題/領域番号 |
25370953
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
中田 英樹 明治学院大学, 国際平和研究所, 研究員 (70551935)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 多文化・多民族主義 / 新自由主義 / マイノリティとしての先住民 / 家事労働(再生産労働) / 市場経済への包摂 |
研究実績の概要 |
2014年度は、グァテマラの治安情勢の悪化に関して、リアルタイムかつ詳細な情報が(メキシコまでは行ったものの)得ることができず、グァテマラでの現地調査はできなかった。個人的事情により、渡米してでの十分な滞在期間が確保できなかったことが主因である。したがってメキシコにて現地調査および資料収集、そしてメキシコでの現地研究者との情報交換をおこなった。グァテマラではないものの、訪れた南部のチアパス州には本研究の対象と同じマヤ系先住民が暮らし、同じく訪れたキンターナ・ロー州にはカンクンという世界的な観光地があることから、グァテマラに関して申請者が計画した対象と同じような社会構造が見て取れる。具体的には次のような作業を展開した。 (1)南部チアパス州からどれほどの先住民が観光地カンクンへと「出稼ぎ」に移動し、申請者が計画したような研究内容、すなわち家事労働の市場経済への包摂・商品化が進んでいるのかに関して、予備的段階ながら現地調査ができた。 (2)かわって、先住民家庭ではないが、首都メキシコシティに暮らす貧困大家族には数名の聞き取り調査ができた。ただ彼女らは先住民ではないため、当研究が考察課題の軸として立てる「市場への包摂の過程での先住民という変数がどのように機能しているのか」という分析には不十分ではある。 (3)メキシコシティにはアメリカ大陸最大の大学とも言えよう、メキシコ国立自治大学があり、ここにも申請者は複数の研究者と連絡を取り合っている。これら研究者たちと情報交換をした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上に記した2014年度に行った研究活動の結果が、次のように帰結したためである。 (1)結果としては、南部チアパス州のマヤ系先住民農家に関しては、ある程度の経済力のある先住民は移住を将来的に考えているが、山奥に暮らす最貧困層の農家に関しては調査は不可能であった。サパティスタ民族解放軍という先住民主体の武装勢力がこの一帯で自治区を構成しており、軽率にこうしたエリアに入っていくことは危険だと判断したためである。 (2)首都の貧困層家庭においては、スペイン語を流暢に話し、伝統的衣装も着ていないため、カンクンや太平洋側の観光圏アカプルコへの出稼ぎはもちろん選択肢として考えられているものの、東京と同じ程度の規模を有するメキシコシティ内でも十分な、家事労働を商品化する機会があり、むしろそうした首都圏内での市場包摂は進んでいることが解った。 (3)メキシコの本研究テーマにも関係する研究をしている研究者からは、高い評価を受けた。とりわけ問題設定の斬新さに関して、「このまま次はメキシコを事例に研究をしてみればどうか」とも言って頂いた。メキシコとグァテマラを比べれば、メキシコシティだけでグァテマラの総人口をはるかに凌ぐ人口を有する。ゆえに大学や研究機関も(グァテマラは例えば国立総合大学は一つ)他に数多く存在し、その意味でも、今後、申請者の研究が、メキシコでの先住民研究・多文化主義に関する研究・新自由主義による社会変動に関する研究などの様々な領野にて、広く発信し、敷衍させていく意義が確認できたし、そのとっかかりが出来たと考える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の実施状況報告書にも記したように、当研究はひとつに、中田英樹、2016年3月出版(予定)、「マヤ系先住民女性の家事労働から捉える多文化主義社会における底辺労働力動員の再編」、秋津元輝・渡邊拓也編、『中間圏:親密性と公共性のせめぎ合うアリーナ』、第I部「中間圏とは何か:その存在と不在」、第3章、京都大学出版会(出版証明発布済み)、として完成させるのだが、同出版会編集からは、「(日本のものではなく)現地の先行研究を俯瞰して、自身の本論での議論に入ること」とコメントを受けている。 この点はかなりの労力を要する。なぜならば、当研究をまとめた上記論考を完成させるためには、グァテマラにおける最新の「先住民の経済階級的な研究」「先住民に限らないジェンダー研究」「先住民という異なった民族との多民族共存に関する研究」といずれもかなりの蓄積のある研究をサーベイし、網羅する必要があるためである。これは一年では十二分に達成できる程の蓄積ではなく、現地の関係研究者に当研究をプレゼンして、ピンポイントで踏まえるべき先行研究をチョイスして貰う必要がある。 したがって、本2015年度においては、確かにグァテマラの治安状況は相変わらず危うく、外務省の渡航HPでも、依然として「十分注意してください」が全土に渡って指定されているが、首都と、申請者が長らく暮らした世界遺産でも有り、首都から一時間程のアンティグア市間には、比較的安全な交通手段が整備されつつ有り、したがって上記研究成果を完成させるための、グァテマラシティやアンティグア市に暮らす研究者との会合・情報交換は可能と考える。 この最終年の三年目は、ひとまず、この作業に力点を置き、一つの区切りとしての成果をとりまとめたい。また、分量から単著とはならないが、グァテマラよりスペイン語にて、どこかの研究機関の成果発信媒体から論文として発表したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
グァテマラの治安情勢による。昨年度より以前として全土に外務省は「十分注意すること」の指定をかけている。実際、とりわけ農村部においては、麻薬組織の対立抗争・武器承認の対立抗争などで、一般人が犠牲になるなどのニュースが相次いでいる。 一方、観光客向けの特別仕立てのミニバンを用いたプライベート・サービスが近年急速に整備されつつあり、この点は、前年度に立てた2015年度の研究実施の計画にも「積極的に利用したい」と記したが、前回メキシコまで行って情報を仕入れた結果、こうしたプライベート・サービスこそが(外国人観光客が乗っているということで)狙われやすいということであった。また、同じ原因により、情報提供者は貝のように口を閉ざすようになった。 こうしたことから、グァテマラでの研究活動が膠着状態に陥り、海外調査が出来なかったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
現在完了した聞き取りでも、「もう十分ではないか」との評価を、前回のメキシコ滞在時の左記に記したメキシコ自治大学の研究者との議論から頂いた。むしろやはり、今後、当研究を(先に記した)京大出版会からの日本語の論文のみならず、ラテンアメリカでスペイン語で出すのならば、現地の最新の文献を網羅すべきとのことで、グァテマラやメキシコでも、安全が高く保証される大学や研究機関での研究者たちとの議論、現地での(日本からはアマゾンなどでも取り寄せるのは困難)文献収集・書籍購入を研究活動のメインにすることで、(したがってやや理論的な成果になるのではあるが)一定のクオリティを持った成果が完成できると思われ、そのためには長期滞在も不可欠なので、予算は消化できると考えている。
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