本研究では、1954年にアメリカの核実験によって被ばくし、現在「仮の島」での生活を送るマーシャル諸島ロンゲラップ共同体を対象として、被ばく後の社会における「つながり」の意味を考察した。マーシャル諸島における調査は、2013年度と2015年度に行った。2013年度の調査では、メジャト島での調査を行うことができ、2004年のメジャト島との違いを明らかにできた。また伝統保存食をメジャト島以外に親族のネットワークを使って再分配が盛んに行われていることが明らかになった。しかしながら予測した親族の親睦会は組織としては立ち上がっていなかった。名目上の親族親睦会がないにもかかわらず、ロンゲラップコミュニティとしての一体感が存続し続けている理由、および避難地に過ぎなかったメジャト島が第二の故郷になりつつある理由として、ロンゲラップ固有の伝統保存食の復活が関与しているという仮説を得ることができた。現在急速に進んでいる海外移住者のネットワークを明らかにし、伝統保存食がコミュニティの存続に果たす役割を明らかにする必要がある。 また、核実験に関するアメリカ公文書に関しても多くの資料が得られた。また核問題を専門とする海外研究者とのネットワークを構築することが出来た。この調査で得られた資料により、米国研究者の関心や、ロンゲラップの被ばく者らに対する対応が明らかになった。また、被ばくの人体影響に関する公文書もあったことから、今後は医学の専門家に協力を仰ぎ、放射線影響を巡る人体影響に関する相互理解という側面から研究する必要性があるとの認識を得た。
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