本研究は、インドネシアのバリ島および国内の沖縄周辺地域の島嶼社会を事例とし、「楽園」という形容を与えられる観光地における、観光と宗教の合理化について探求しようとするものである。 今年度は、理論研究の面で、2つの成果を論文として刊行した。ひとつは、ギアツのバリ宗教合理化論とヴェーバーの宗教合理化論との差異と共通性を整理した、日本文化人類学会の学会誌への投稿論文(研究ノート)である。いまひとつは、この論文とも密接な関連を有する、マックス・ヴェーバーの合理化論の認識基盤を文化人類学の民族誌的研究との関連を視野にまとめたものであり、こちらは大学紀要『アカデミア』に掲載された。 これらの業績を刊行する傍らで、資料収集作業も進めた。まず、観光と宗教の実態について、1週間程度沖縄で、また2週間程度バリで、それぞれフィールドワークをおこなった。沖縄では、観光と宗教の関係を慰霊観光という形態において捉えつつ、その観光形態の転換を示すデータを、那覇市の図書館や公文書館で収集するとともに、ひめゆり平和祈念資料館において資料収集を行った。ひめゆりについてのデータを収集し議論の方向付けをおこなうことが今年度の最優先課題と考えてたが、そこに一定の見通しを得ることができた。また、バリについては、これまで継続的に収集してきたデータをあらためて再整理しながら、議論の穴を補うデータ収集をおこなった。とくに、サヌールという観光地にあるホテルと寺院の関係の現状について確認しインタヴューできた。 以上、研究全体の民族誌的データの整理に、かなりめどが立ってきたように思われる。その点では、研究計画を順調に進めることができたと判断する。理論研究の面では、リスク論と観光論・宗教論との接合可能性について、さらに考察を進めた。
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