研究最終年度に当たる平成28年度は、前3年間に実施した調査研究を補完することを目的として、米国マサチューセッツ州ニューベッドフォードのニューベッドフォード捕鯨博物館において、ベクウェイ島を含むカリブ海地域に捕鯨技術をもたらした米国帆船式捕鯨にかかる資料を収集した。その結果、ベクウェイ島において、2014年まで使用されていた捕鯨ボートの形状と米国帆船式捕鯨時代にニューイングランド地方において建造されていた捕鯨ボートの形状がほぼ同じであることが確認できた。このことは、米国ニューイングランド地方からベクウェイ島への捕鯨技術の伝播を例証するものとして非常に興味深い。 平成25年度から平成28年度までの4年間に実施したセント・ヴィンセントおよびグレナディーン諸島国ベクウェイ島における先住民生存捕鯨にかかる調査研究の主たる成果は、次のとおりである。ベクウェイ島の先住民生存捕鯨をホエール・ウォッチングに転換することをめざすNGOが2012年より活動を開始し、同団体が2014年2月に当時捕鯨の中核的存在であった銛手の保有する捕鯨ボートを買収、同銛手は捕鯨から引退した。その結果、活動中の捕鯨チームは2チーム、捕鯨ボートも2隻となり、ベクウェイ島の先住民生存捕鯨は弱体化した。それが、過去4年間のザトウクジラの総捕殺数3頭という数字にも反映されている。また、NGOが買収した捕鯨ボートは上述の米国帆船式捕鯨時代からの伝統を受け継ぐ最後の捕鯨ボートであり(現在活動中の2隻の捕鯨ボートは漁船を改装したもの)、そのボートが捕鯨に使用されなくなったことにより、捕鯨文化の一面が過去から断絶された。2017年現在、捕鯨から引退した元銛手ほか1名がNGOの援助を受けて、ホエール・ウォッチングの創業を準備している。筆者が調査研究に従事した4年間にベクウェイ島の先住民生存捕鯨は大きく変貌したといえるであろう。
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