平成25年度および26年度は、それぞれ約2ヶ月間の現地調査を実施し、水俣病被害者支援NPO「水俣病センター相思社」(以下、相思社)の現在の活動内容、組織形態、社会関係等についてデータを収集した。その結果、前回、長期現地調査を実施した平成17年度以降に、メンバーの世代交代と、行政との協働の推進という二つの大きな変化が相思社に生じていることが明らかになった。平成27年度は、約6ヶ月間の現地調査を実施し、これらの変化の前提となっている相思社の歴史を明らかにするために補足調査をおこなった。具体的には、水俣市周辺に居住する水俣病被害者支援運動経験者、特に相思社の元メンバーから、運動の歴史について聞き取り調査を実施し、データを収集した。また、相思社資料室、水俣市立水俣病資料館等において調査を実施し、水俣病被害者支援運動の歴史についての文献資料を収集した。 これらの調査を通じて以下のことが明らかになった。第一に、現在の相思社が伝えている知識は、長年にわたる運動のなかで蓄積されたものであり、学校教育や行政、マスコミ等を通じて伝えられる知識とはその内容や形態において異なる独自のものになっている。第二に、1990年以降、行政が相思社を統治しようとする過程と、相思社が行政を利用して自らの利害を追求しようとする過程の両方が同時進行している。第三に、相思社の活動の変化は、市民運動から住民運動、NPO活動へという日本の社会運動または市民社会の歴史のなかに位置づけることが可能である。 本研究は、社会運動を知や実践の様式が蓄積されるコミュニティととらえる、社会運動への新しいアプローチの有効性を示すことができた点で意義がある。また、社会運動の主要な争点が文化的なものに移行していることから、社会運動研究における人類学的なアプローチの有効性を確認できたという点で重要である。
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