研究課題/領域番号 |
25370960
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
鈴木 七美 国立民族学博物館, 研究戦略センター, 教授 (80298744)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 補完代替医療 / 健康長寿 / 多世代共生 / スイス / ドイツ / ライフロング・ラーニング / エイジング・イン・プレイス / 養生 |
研究実績の概要 |
現代医療と多様な民間医療・代替医療が実践されてきたスイス、及びホメオパシー(同毒療法)や植物療法に関し、スイスと影響関係にあるドイツなど欧州の他の地域と比較しつつ、情報収集・現地調査を展開した。 地域資源を生かした治療やヒーリングの実践の可能性について、国立民族学博物館で国際研究集会(1)(2)を開催し、議論を深め情報収集した。(1)では、ドイツやルーマニアの研究者を招聘し、民間医療・代替医療の歴史と現在に関する発表と議論を通じて、地域資源を生かした地域医療の形成過程と利用に関し情報を蓄積した。また、(2)では、中国、モンゴル、そして韓国における民間治療と人々のアイデンティティや食文化など日常生活との関係について議論し、代替医療として提示される実践とライフスタイルやウェルビーイング観の関係について、考察を深めた。 現地調査として、高齢者が暮らしやすい町づくりを推進しているスイス、ドイツの地方都市において、予備調査に基づき、高齢者と若者世代が共に作る環境と養生に配慮した暮らしの場について、企画と建設過程、共有スペースや時間の共有に関する構想と実践に関し、集中的に情報を収集した。高齢者ケアと補完代替医療については、平成25年度に収集した基本的資料と調査成果を生かして、スイス中部地域において、フィトセラピーを活用している高齢者生活支援付住居が含まれる複合施設について現地調査を進めた。障碍者が学び働く場、子どもたちの教育の場、農産物生産の場、コンサートホールやレストラン・ホテルなど内外の人々の利用に開かれた場を有する総合施設の各部署においてインタビュー調査および参与観察を行った。また、障碍者が住み慣れた町で仕事や交流をしながら長期に暮らせる住居・交流施設の創出について、比較的視点から調査を行った。 ホメオパシーなど代替医療や民間医療の歴史と現在に関し、書籍を編集し論文を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度に集中的に進めることを予定していた、(1)スイスにおいて、高齢化や人々の移動に伴い、ホメオパシーをはじめとする代替医療・民間医療の適用状況にどのような変化が見られるかに関する情報収集・現地調査、(2)予備調査済のスイスの組織・施設に関し、高齢者のニーズに応える実践に注目し情報を蓄積、を遂行した。高齢者のウェルビーイングに配慮したフィトセラピー(植物療法)やシュタイナー医学を実践している、複合型施設において集中的な現地調査を行った。この施設はスイスにおける水浴養生の歴史に根ざし19世紀から活用されてきた施設を基礎として、多世代共生、若年世代における雇用機会の創出などの特徴を付加しつつある。現地調査によって、地域に特徴的な環境と水治療の伝統などの文化資源を活用し、子どもから高齢者まで、健康長寿、仕事、交流に興味を抱く人々が過ごし、教育や余暇活動を行うことを目指す施設の展開について、不可欠の資料を蓄積した 国際研究集会を開催し、ホメオパシー、フィトセラピー、中医学、人智学(シュタイナー医学)などの代替医療が適用されてきた状況を考えるにあたって不可欠の代替医療・民間医療に関し、情報を蓄積し議論を深めた。 情報収集と資料分析の成果の一部を、ホメオパシーの適用などの比較研究に関する書籍(Suzuki, N. ed. Healing Alternatives: Care and Education as a Cultural Lifestyle, SER 120, Osaka: National Museum of Ethnology)の編集、および代替医療を推進する「自然の力」に関する考察と実践に関する論文(Care as Self-help, In Suzuki N. ed. Healing Alternatives, SES 120)の執筆に生かした。
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今後の研究の推進方策 |
高齢化する社会において、高齢期のウェルビーイングの充足に資する思想と実践に注目することにより、すべての世代の人々が暮らしやすい環境創出について、情報を得ることができる。スイスにおける高齢期の生活をめぐる特徴は、高齢者対象生活支援付住居や、ナーシングホームという施設に移り住む傾向が高いことである。本研究においては、高齢期の生活の場が多世代が暮らす場として展開している複合施設に注目して、(1)健康長寿と経済性に配慮した養生法の展開、(2)多世代共生型・多機能施設・コミュニティ創出の歴史と課題、(3)障害者と高齢者が自立して暮らせる環境に関わるノーマライゼーションの思想の内容と適用、などについて、地域で共有される文化という視点から、現地調査に基づき、情報を蓄積する。また、すでに予備調査を行った数種の高齢者対象生活支援付住居においても、すべての世代に関わる民間医療・代替医療と教育活動が、どのように位置づけられているか現地調査を進める。これらに関連し、国際研究集会において得られた比較的視点を生かし、さまざまな地域において応用可能な情報としてまとめて発信する準備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料の一部の整理に関し計画を整備した結果、2015年度に入手予定のものと同時に進めることがより適切だと判断し、整理用ファイルの購入を2015年度に行うことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度に進める資料整理に際し、必要な文具を購入する。
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