今年度はスイスやドイツで補足調査を行い、高齢者が補完代替医療を適用する場や機会に注目し、ウェルビーイングを構成する要素や意味について検討した。 自宅から高齢者対象集合住居施設やナーシングホームに移動したことによるストレスや不調に対し適用されてきた補完代替医療は、その施術の時間も合わせて、高齢者が施設やスタッフなど新しい環境に適応する機会を与え、とくに多世代共生型環境では、高齢者が新しい街の住人として生活する支援となっていることが明確となった。認知に問題のある高齢者に対する補完代替医療は、地域の食材を使った調理と飲食に基づく養生法や自然とのふれあいと休息など、日常活動とリズム調整が併用されることによって、施設居住であっても地域居住を充実させることに繋がっていることが判明した。 スイスの補完代替医療や養生文化について収集した資料について翻訳を進め、論考の作成を行った。代替補完医療を特徴とする高齢者対象生活支援付住居の展開に関する研究成果を広く一般に発信した講演会の内容を発展させ、ウェブで発信した(「高齢期のウェルビーイングと多様な住まい方―変わりゆく人の生(ライフスタイル)から考える」)。 スイスの高齢者たちが親しんできた地域の癒し文化と養生思想に関する知見を、日本薬学会のホームページを通して広く医療従事者・研究者および一般に向けて提供し(「スイスにおける養生文化とエイジ・フレンドリー・コミュニティ」)、成果の一部を日本文化人類学会研究大会において報告し、さらに一般・研究者を対象とした招待講演などにおいて発信した(「医療現場での想像力――エイジング・イン・プレイスと養生」「スイスの高齢者たちが親しんできた地域の癒し文化と養生思想」)。
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