本課題は27年度で終了する予定だったが、近代日本についての検討に予想以上の時間を要し、期間内にドイツについての本格的な検討を行うに至らなかったため、1年間の期間延長を認められたものである。本年度は近代ドイツについての検討に取り組んだ。ドイツにて調査・収集すべき史料を絞り込むための準備作業と、ドイツ出張(マックス・プランク欧州法史研究所・ベルリン国立図書館)による史料調査・収集である。 19世紀~20世紀前半の近代ドイツ民事訴訟における職権と当事者の関係につき、判例・学説については先行研究の一定の蓄積がある。研究代表者は、判例・学説の影響を正確に評価するためには、それらの実務法曹への伝播・認識のありようが重要な意味を持つと考えた。そこで、判例・学説が実務法曹に行き渡るチャンネルたる判例集・手続マニュアル・書式集などの「実務向け文献」を主たる史料として検討することとした。 「実務向け文献」は学術的価値に乏しいとみなされて先行研究は存在せず、系統的な収集がなされてきたとも考え難い。そこで、実務系文献に強いと思われる法務図書館(東京)にて、同時代のわが国の「実務向け文献」について若干の準備的調査を行なった上で、ドイツ出張により調査を行なった。すでに近世において「実務向け文献」という自己認識をもつ文献が版を重ね、ドイツ帝国民訴法典施行(CPO・1879)にかけての時期には、具体的な事例を想定した書式集やマニュアルが多数出回っており、CPO施行後においては「実務向け文献」の質量はわが国に比べきわめて充実していた。このことは当事者(弁護士を含む)のための職権の介入の必要性・態様如何を考える上で無視できないポイントである。また、「実務向け文献」に素人むけの指南書も多くみられることは、「西洋では日常的に弁護士や公証人が関与して行う」という「常識」に再考を迫るものかもしれない。
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