研究課題/領域番号 |
25380007
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
仁木 恒夫 大阪大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (80284470)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 法律事務員 / 弁護士業務 / 養成システム / アメリカ / 比較研究 / 法的知識 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、主に次の二つの側面から研究を進めてきた。 一つは、法律事務員の理論研究の洗練である。これまで筆者が公表てきた論稿の整理から、法律事務所における事務職員の業務は、弁護士の活動を予測しつつ組み立てられるという理論的仮説を昨年度取りまとめたが、司法改革後の状況の変化を反映させるためパイロット的に聴き取りを実施してきたところ、「法律事務員の法的知識」及び「法律事務所の経営的関心」という点から調整が必要であることが明らかになった。そのため、平成27年1月に、二段無作為抽出法によって抽出された全国の1820名の弁護士(弁護士人口の5%)の雇用する法律事務員に対して業務内容についての調査票調査を実施した。454名(25.1%)の調査票が回収された。データの分析から、法律事務員の担当業務は、従来からみて法的色彩をもったものが増加していることがうかがわれた。他方で、多くの法律事務員が様々な資格を取得していることもデータから明らかになっており、専門的技術が法律事務員の業務にいかされているのではないかということが推測される。こうした知見をふまえて、獲得されている理論研究の成果を洗練させてきている。 もう一つは、わが国の法律事務職養成システムの政策論的検討である。わが国の法律事務員養成は、就職後からではあるが、日弁連により全国統一的に整備されている。このことはメリットとともにデメリットを持つことになっている。すでに明らかになっているように近年の法律事務員は法的知識を必要とする業務に携わる局面が増えているようであり、これに対応するためには研修制度の一層の充実が不可欠である。日弁連の事務職問題小委員会所属の弁護士との意見交換をとおして、段階的な研修の必要性、実質的な参加を促す科目の増設などを構想するにいたっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、研究計画全般の中で、研究成果の骨格を構築することにあてられている。 前年度の到達点から、環境の激変を反映した法律事務員の実情の把握とそれに基づく理論の修正の必要性が示唆されていた。今年度は、まさにこの課題の遂行に重点を置いて研究を進めてきた。とくに平成26年中に十分に時間を取って計画立案された調査票調査を年度内に実施し、調査票の回収、単純集計の整理までを行った。この調査の成果に基づく知見からは、筆者がこれまで類型的に整理してきた法律事務員の業務をより統一的な視座で再構成する必要があることが明らかになっている。この点で、平成26年度の研究は大きな成果を得ることができている。ただし、当該定量調査は、その性質上、法律事務員の実情を概略的に明らかにするにとどまり、個々の具体的な業務のあり方については定性的調査で補う必要があるだろう。 また、本研究は、すでに弁護士補助職の専門性が広く認知されているアメリカを比較対象国として、その実情を平成25年度の研究において一定明らかにしてきている。先述のようにわが国の法律事務員についての定量調査を実施した関係で、アメリカでの調査は今年度は実施しなかったが、Levin及びSeronの所説の検討を中心に、文献調査を継続している。とくに、アメリカで弁護士団体が弁護士補助職に関心を持ち出した当時の状況に関する諸研究からは、数年前に日弁連が法律事務職養成制度を立ち上げたわが国のあり方を考えるうえで重要な知見を獲得している。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究計画は、わが国の法律事務員の実情の把握にやや重点を置いて実施されたが、全体としては概ね順調に達成されている。今後の研究も当初の計画どおり引き続き遂行していく予定である。すなわち、これまでの研究成果を統合し、その一部を日弁連業務改革シンポジウムで公表する予定である。 とくに平成27年10月の日弁連業務改革シンポジウムの法律事務員問題分科会へ報告者またはパネリストとしての参加が確定している。それに向けた会議に出席しつつ、このシンポジウムで発信する「法律事務員の養成システム」についての方向性に、本研究が具体的な寄与ができるよう、現場とのすり合わせを念頭に置いた研究の深化をおこなう必要があるであろう。 また、次年度予定されている研究計画を実施するにあたり、今年度の研究遂行過程で明らかになった課題への対応が必要になる。定量的調査で調査協力の許可を得ることができた法律事務員に対して聞き取り調査を実施しそのデータを検討したうえで、定量的データと突き合わせ、多角的観点から法律事務員の実情をより正確にとらえることである。72名の調査候補者がおり、可能な限りで調査を実施する予定である。 次年度は本研究の最終年度である。したがって、日弁連業務改革シンポジウムの場での議論をふまえて、これまでの研究成果の最終的なとりまとめをおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
通常通りの研究遂行をおこなったが、平成27年に実施した調査票調査の郵送費の減額分があり、若干の額が残った。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでの計画どおり研究を進めていくことで問題はない。
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