研究実績の概要 |
本研究の目的は「制限君主制論」あるいは「混合政体論」の基礎を提供する理論として注目されている15世紀イングランドの法律家ジョン・フォーテスキューの国制論の歴史的位置を明らかにすることにある。 最終年度にあたる本年度は、主として以下の2点について研究を進めた。第1に、トマス・アクィナスからの影響について。フォーテスキューは、その初期の著作『自然法論』において、トマスの『君公統治論』(Ad Regem Cypri de Regimine Principum)に言及し、同書の中でトマスが「王権に基づく統治」と「政治権力に基づく統治」について論じていることを指摘している。これらの概念は、フォーテスキューの理論の特徴である「王権かつ政治権力に基づく支配」にとって真に権威となるものではないが、フォーテスキューはトマスの用語を基に独自の思考を展開していったのではないかと考えられる。 第2にフォーテスキューの蔵書について。オクスフォード大学ボドリ図書館蔵の分類記号 Rawlinson,C.398 を付された写本(2015年9月に実際に閲覧)は、フォーテスキューの蔵書の1つであったことが明らかであり、そこに含まれた2つの作品、すなわちRichard Rede著『新年代記』とボヴェーのウィンケンチウス著『君公の道徳的教育について』の内容を検討した結果、前者からは、フォーテスキューが、「王権かつ政治権力に基づく支配」の古さを強調するに際して依拠した「ブルータス伝説」が当該『年代記』に書かれており、また力による支配権の交替を意味した「ノルマン征服」の効果を否定しようとしていたことが判明した。また後者については、フォーテスキューがその王権論においてウィンケンチウスから大きな影響を受けていること、しかしウィンケンチウスの著作は「混合政体論」の典拠とは言えないことが明らかになった。
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