研究課題/領域番号 |
25380015
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
小室 輝久 明治大学, 法学部, 准教授 (00261537)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | イングランド / 刑事裁判 / 治安判事 / 書記 |
研究概要 |
本年度は、19世紀イングランドの刑事裁判における治安判事(非法律専門家)と書記官(法律専門家)との関係を明らかにするために、ロンドン首都地域の行政・裁判史料を所蔵するロンドン首都公文書館London Metropolitan Archives(LMA)において、治安判事裁判所書記官に関する資料の調査、収集及び読解を行いました。 収集及び読解を行った主な資料に、(1)Clerk of the Peace Memoranda Book (MC/R/18)、(2) Deputy Clerk of Peace’s Diary and Cash Book (MC/R/19)、(3)Office Day Books (MC/F/51)があります。(1)は1836年以降の(正確な作成時期は不明)治安判事裁判所書記官の職務を月毎に項目と根拠法条を記載して一覧表にしたものです。陪審員名簿や選挙など、司法と行政の両面にわたって治安判事裁判所書記官が職務上の義務を負っていたことを示しています。(2)は1873年の治安判事裁判所書記官補佐による業務日誌です。法廷の開廷期日及び開廷場所、業務内容、作成した文書名などを知ることができます。(3)は治安判事裁判所書記官の1803年11月から翌年5月までの業務に関わる金銭出納記録です。法廷の開廷期日、陪審員召集令状及び宣誓供述書等の発給状況及び手数料額などを知ることができます。 上記資料の内容を概観する限りでは、(a)19世紀の治安判事裁判所書記官が刑事司法及び行政の両面にわたって職務を行っていたこと、(b)刑事司法に関して、訴訟運営に関する事務処理を中心に行っていたことが推測できます。上記資料の記載内容は、19世紀における治安判事と書記官との関係を考察する上で、当該時期の書記官の主要な職務を確定するための根拠資料としての意義を有すると考えられます。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では、本件研究の対象時期を、首都ロンドンにおける警察制度改革や、1888年地方統治法の制定による治安判事制の改革の時期を考慮して、(1)1820年頃から1840年頃までの間、(2)1840年頃から1870年頃、(3)1870年頃から1890年頃までの間の3つの時期に分けて、平成25年度には1820年頃から1840年頃までの資料を調査し、平成26年度以降にそれ以降の時期の資料を調査する予定でした。 ところが、治安判事裁判所の主な裁判記録であるPetty Sessions Recordsをロンドン首都公文書館で実際に調査したところ、目録上は19世紀前半の資料を含むとされるPetty Sessions Recordsの記録のなかにも、当該1820年から1840年代の時期の資料はごく断片的なものが僅かにあるのみで、大半の資料が19世紀後半乃至20世紀前半のものであることが少なくないことが判明しました。 そのため、今年度に実施した刑事裁判記録の調査では、19世紀前半の治安判事裁判所書記の活動を記録する文書資料の調査を、刑事裁判記録以外の資料を含めて行いました。その結果Memoranda Book、Office Day Bookに依拠して、当該時期の書記官の職務内容を明らかにすることができるに至りましたが、当初計画していた、この時期の刑事裁判記録を収集することができませんでした。 研究の目的の達成度がやや遅れていると評価したのは、上記のような資料の不足がその理由です。
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今後の研究の推進方策 |
本件研究の目的であるイングランド刑事司法における紛争解決プロセスの変容及び刑事裁判の専門化の時期の特定を、時間に制約のある現地資料調査を通じて行うため、資料の調査の順序を、当初の研究計画で予定していた、(1)1820年頃から1840年頃までの間、(2)1840年頃から1870年頃、(3)1870年頃から1890年頃までの間の3つの時期に分けて、古い時期から順に行うという方法から、次の通りに変更して、19世紀におけるイングランド刑事司法の変容のアウトラインを把握します。 すなわち、Session Recordなどの訴訟記録資料については、現存する資料の時期が19世紀後半以降のものが中心であるため、1890年以降の比較的新しい資料から、おおよそ10年おきに(1880年頃、1890年頃、1900年頃など)抽出して収集・分析を進めます。同時に、治安判事裁判所書記の文書記録であるMemoranda Book, Day Bookについて、現存する資料を19世紀前半の比較的古い資料から順に、同様におおよそ10年おきに抽出して収集・分析を進めます。 このことにより、各時期の関係資料を定点観測的に調査することにより、イングランド刑事司法における紛争解決プロセスの変容及び刑事裁判の専門化の時期とその様相について明らかにすることを試みます。
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次年度の研究費の使用計画 |
外国旅費(資料調査費用)が当初予算より嵩んだため、国内旅費で行う予定であった研究打ち合わせを別途に行い、国内旅費を支出しなかったためです。 当初予算より嵩むことが見込まれる外国旅費(資料調査費用)に充当する予定です。
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