研究課題/領域番号 |
25380016
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
佐々木 秀智 明治大学, 法学部, 教授 (50303037)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 電子メディア所有規制 / 情報の多様性の確保 / 地域性の確保 / 地域放送局所有規制 / ネットワークの中立性 / 表現の自由 / 連邦憲法修正第1条 |
研究実績の概要 |
本年度は、Prometheus Radio Project v. FCC判決で問題となった米国連邦通信委員会(FCC)による規制のうち、特に地域レベルでの放送局所有規制のあり方に関して検討を行い、情報通信政策レビュー誌に論文を投稿した。同論文では、電子メディア所有規制における情報の多様性、地域性の確保および公正競争の維持との3基本理念のうち、地域性の確保に重点をおいた検討を行った。 そして当初の計画では、FCCが2014年に規制改革審査報告を公表するのを受けてその検討を行う予定であったが、FCCが2014年に報告を作成しなかったため、計画変更を余儀なくされた。この背景には、連邦憲法修正第1条上、それぞれのメディア所有規制の合憲性を根拠づける具体的理論の構築について様々な議論があり、それと同時にメディア環境の急速な変化に対応した法規制の実施が極めて困難なものになっていることが指摘できる。 第2に、放送メディア所有規制と同時に、近時米国で活発に議論されているネットワークの中立性に関する問題について、2014年に下された連邦控訴審判決を中心として、修正第1条上のインターネット接続事業者の位置づけに関する検討を行い、別冊NBL誌で論文を公表予定である。当初の計画では、通信事業者の修正第1条上の位置づけについて検討するとしていたが、ネットワークの中立性に関する議論において、「通信」(common carriage)の再定義、通信メディアへの修正第1条上の保護の拡大の当否が議論されるようになったことから、この問題について検討対象とした。 以上のように、米国の法的議論状況、政治的社会経済的状況の変化により、当初の計画の変更を余儀なくされている部分があるが、研究計画書で指摘した、電子メディア所有規制における修正第1条の役割が拡大するとの視点が間違いではなかったと結論づけることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要でも指摘したが、本研究の研究計画書を作成した段階とは異なり、米国の電子メディア法政策をめぐる社会経済的状況の変化によって、2014年に規制改革報告が作成されなったため、そもそもの研究対象が存在しないこととなり、同報告書の分析との当初の計画は達成されなかった。しかし、Prometheus Radio Project v. FCC判決までの規制およびその合憲性の検討を行うことができ、また実社会の動向にあまり影響されない理論面での研究は問題なく行うことができたということができる。 またネットワークの中立性の問題のように、新たな問題状況にも対応することでき、研究の最新性を維持できたと評価している。特に、これまでのネットワークの中立性に関するわが国の研究は、経済法的視点からなされるのが一般的であったが、米国においては憲法、特に言論の自由の観点から分析されることも一般的である点を明らかにすることができたと評価している。 以上から、計画以上に研究が進展しているとは評価できないが、おおむね順調に進展しているとの評価に至った。
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今後の研究の推進方策 |
FCCは2014年規制改革報告を作成しないとしたが、新たな報告書作成作業は継続しており、また具体的規制ごとに様々な報告書を公表する予定である。このことから、電子メディア所有規制に関するFCCの活動についてフォローしていきたいと考えている。 またネットワーク中立性の問題のように、様々な電子メディアサービスの出現、およびそれへの法的対応の試みが盛んになっている。そこでは新規の電子メディアに対してどのような事業規制(所有規制を含む)を行っていくべきか、またそれが修正第1条上どのように評価されるべきかに関して分析していきたいと考えている。 さらに理論的側面として、上記の所有規制、中立性の問題の前提問題として、修正第1条が保障している「言論」(speech)とは何かについても検討していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画書作成段階の為替レート(1ドル=70円台)と、2014年度中の平均的為替レート(1ドル=120円前後)が著しく異なっている、外国語書籍が高額化した等の理由から、米国の書籍購入にかかわる費用が想定以上に増加したため、米国への出張を取りやめ、書籍の購入に重点をおいた。そのため書籍は十分に購入できたが、出張のための旅費には不足したため、それが繰越金となった。
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次年度使用額の使用計画 |
今回の繰越金と次年度の合計金額でもって、米国への出張を実施する。また2014年度に書籍の購入に重点をおいたため、2015年度の物品費は減少する予定である。
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