本研究は、先端医療技術が提起する倫理的問題に関し規制手段として用いられることの多いソフトローに焦点を合わせ、その意義と実態の解明を課題とした。生命倫理に関する基礎法学研究の1つとして、理論と実態の両面からアプローチしようと企図したものである。 研究責任者および研究分担者・協力者をめぐる事情変化の中で、研究は必ずしも計画通り進められたわけではないが、少なくとも次の3点において成果を見ることができよう。第一に、研究テーマに関する資料収集を通じ、とりわけ近年、洋語文献の中に生命倫理ソフトローの研究が増え、また、医療のみならず環境、経済、労働など様々な領域のソフトローに一般理論的探究を試みる研究論文も出てきている。それらを確認することができた。第二に理論面では、ソフトローが法と社会の連結子であり、同時に法の側から一定の方向づけを伴う秩序づけのコミットメントになっていることが明らかになった。それは単に法のソフトな秩序づけ機能として評価しうるだけでなく、法と社会の接点においていかに規範秩序が形成されるか、また、法の規範枠組みが人々の規範意識とどのように構造的につながっているかの解明に手がかりを与える。ソフトロー研究は、法と経験則、法と倫理の関係の解明に資するものとなる。第三に、様々な研究会および医療機関へのヒアリング調査を通して、ソフトロー規制の有効性と危うさに接することができた。ソフトローは規範的秩序づけの試行錯誤過程を表すものであるが、微妙な倫理問題を孕むがゆえに、その実態が十分明らかにされないという問題もある。それはまた、アーキテクチャーやハイブリッド規制など規範形態の多様化に関わる現象とも関連している。 こうした知見は法の新しい展開を示すとともに法の構造的理解に新しい地平を開くものともなる。研究成果の公表(学会発表と論文刊行の予定あり)を含め引き続き研究の進展を期したい。
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