今年度も前年度に引き続き、ローマ法信託遺贈の構造や技法、法システム全体にもたらした意義等を踏まえ、各論として、特に信託遺贈の後見的機能を中心に検討した。 信託遺贈に関わるローマ法資料には、年少者や女性、庇護者等なんらかの保護を要すると思われる立場の者が受益者に設定されている事例が数多く見られる。信託遺贈は、遺言者がその財産の一部または全部を、受託者を介して、受益者に移転する方途だが、このような保護を要する受益者に対しては、単なる財産移転に留まらず、財産から生ずる果実や利子を受益者に年金として定期的に引渡したり、あるいは財産を一定期間保管あるいは運用した後に適切な時期に引き渡したりなど、受託者には単なる財産移転の中継者としての役割以上のものが期待されている。そこには受益者のための財産管理に内包される形で適切な監護をも託する遺言者(委託者)の意図が観取される。 各論的テーマとして、alumunus(養子、里子、捨て子)と呼ばれる実子ではない子供に対する信託遺贈について考察した。近年、碑文研究や社会史の分野で研究が進んでいる分野であるが、ローマ法資料の分析は未だ十分とはいえない。学説彙纂、勅法彙纂等にのこされたalmunus、alumnaが登場する法文には、信託遺贈に関わるものが大半を占めており、これらを法的な観点から検討し、最新の研究につきあわせてながら、こうした子供たちと養親たちの財産と死をめぐる問題にアプローチを試み、報告した。
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