研究課題/領域番号 |
25380022
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岸本 太樹 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (90326455)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 法規命令 / 行政契約 / 規範制定契約 / 民主的正統性 |
研究実績の概要 |
本年度は、リスク予防措置決定過程における様々な協働形態のうち、特に「行政契約」という「協働の典型的な発現形態」に焦点を当て、「法規命令の制定権限を持つ行政庁」と「当該法規命令の制定により規制を受けることになる民間の法主体」が、法規命令制定の是非並びに法規命令の具体的内容等について交渉し、最終的に「法的拘束力を持った契約を締結する現象(実務事例)」について、そこに潜む憲法学及び行政法学上の問題点を洗い出し、それを理論的に検討することに力点を置いた研究を行った。 欧州では、科学的不確実性を特徴とする「環境リスク」規制を目的とする法規命令につき、①制定それ自体の是非、及び②制定すべき法規命令の内容等が、法規命令の制定権限を持つ行政庁と法規命令による潜在的な被規制者たる民間法主体との間での交渉・合意・契約を通じて法的に決定される実務事例が数多く見られ、環境法上の協働原則並びに公私協働の名の下に、これを積極的に推進する動きを示してきた。しかし近年、こうした行政実務の動向に対し、少なくとも法的に拘束力を持った契約という形態で法規命令の制定及びその具体的内容を決定することにつき、憲法学及び行政法学の両面から、強い疑念が提起されるようになっている。上記規範制定契約は、真正・不真正を問わず、憲法上民主的正統性を持たない民間法主体に対し、法規命令の制定及び法規命令の内容を共同決定する権利を付与することにつながるからである。 本年度は、真正・不真正規範制定契約に対する公法学の評価につき、特にドイツの公法学説の議論動向の全体像を解明することに重点を置いた研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記法規命令制定契約に対する公法学の評価(とりわけ、この問題に関するドイツ公法学の議論動向)の全体像を浮き彫りにし、一定のまとまった学術的知見を獲得することができたと考えている。なお、その研究成果の一部は、論文化し、拙稿「契約と行政立法ー序説ー規範内容形成局面における協働の限界」(北大法学論集第65巻第3号1頁以下56頁)として公表を行っている。 以上の点から、研究は、交付申請書に記載した「研究の目的」との関係で、順調に進捗していると考える。なお、交付申請書作成の段階では、本年度、「場合によると」欧州・ドイツの実務実態を調査する可能性があることを記載しているが、かかる実態調査は、本年度実施しておらず、次年度に持ち越している。これは、本年度、これまでの研究で得られた知見を、まずは論文として世に問い、論点を明確に提示することが、後の実態調査をより有意義なものにすると考えたことによる。欧州・ドイツの実務動向の調査並びに当該実務動向に対する学界の評価・反応についての実態調査は、次年度の研究活動のなかで実施する予定である。 以上の点から、本研究は「おおむね順調に進展している」と判断した次第である。
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今後の研究の推進方策 |
拙稿「契約と行政立法ー序説」(北大法学論集第65巻第3号1頁以下)でも述べた通り、近年、欧州特にドイツの公法学説においては、真正・不真正を問わず、規範の制定を内容とする行政契約(真正・不真正規範制定契約)に対しては、民主的正統性の欠如を理由に、これを厳しく批判する議論(違憲論)が盛んである。それは、「法規範という形式にによってしか規律できない事項がある」ことを前提としており、「法規範という形式によってのみ規律すべき事項を、契約を通じて決定するやり方は、民主的正統性確保の観点から、憲法上疑義がある」ことを示している。本研究を通じて浮き彫りにされた上記の視点は、我が国の行政実例を調査し、之を分析・評価する際、重要な視点であると考える。東日本大震災後の原発再稼働にあたり、原発立地自治体と電力会社との間で、所謂「安全協定」の締結が議論されつつあるが、果たして、安全協定という契約(又は契約類似の)手法を用いることそれ自体の是非が問われることになるからである。今後、本研究を推進するにあたっては、日本及び欧州(特にドイツ)において見られる協定の実態を調査し、その内容を吟味しながら、果たしてそれが契約という行為形式を通じて規律されることに問題がないかどうかにつき、実態調査を踏まえた研究を行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、これまでに得られた学術的知見を論文化し、論点を明確化する作業を優先する必要があると考え、またそれが、欧州・ドイツ並びに我が国における行政実務の実態を調査し、これを評価することを、より有意義なものにすると考えた。そのため、本年度予定していた国内外の実態調査は、次年度に行うこととし、実態調査に要する費用を次年度に繰り越すことが適切であると判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度、ドイツ及び欧州並びに我が国における行政実務の実態調査を行い、本年度までの研究において得られた学術的知見を踏まえながら、これを総合的に評価・分析する予定である。 国内外の行政実務の実態調査は、次年度夏期及び冬期に行う予定である。
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