本研究においては,租税手続法の国際的側面に関する基礎的研究を行いました。すなわち,①国際的なフォーラムにおける動向の巨視的分析,②租税条約上の情報交換に関する個別的分析,③租税条約実施特例法の改正に関する個別的分析,の3つの分析を組み合わせて,条約と国内法の展開を総合的に整理し,基礎的な視座の獲得を目指しました。 ①については,OECD税務長官会議やグローバル・フォーラムの発出した多数の報告書,および,それらに関する二次文献を収集し整理するとともに,IFAやIMF,OECDなどの国際会合に出席して意見交換しました。②については,多国間税務執行共助条約に関する専門家委員会の注釈を読み込み,主要部分を抄訳して公刊しました。これにより,相互主義や比例原則,納税者の権利保護といった原則が同条約の基礎的根幹を成していることが明らかになりました。③については,特に非居住者の金融口座情報に関する共通報告基準(CRS)について研究を行いました。すなわち,自動的情報交換の国際的枠組みが整備され,課税目的の情報交換の水準が塗り変わる中で,租税条約実施特例法の改正を検討しました。公刊した論文では,納税者の手続保障の必要性,制度の実効性に関する課題,課税管轄権に対する含意を論じています。 本研究の結果として,急速に展開しつつあるこの分野について,条約と国内法の両面からの基礎的な文献整理と視座獲得につながりました。このことは,今後,法制度横断的な論点の検討に進むための基礎を成すものと考えます。
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