本研究は、近時日本の憲法学界において注目を集めているアメリカ流の「違憲審査基準」とヨーロッパ流の「比例原則」の異同について、1.両者は、憲法上の権利の制約が正当かどうかを、権利と対抗する政府利益の間での利益衡量によって決しようとする「利益衡量」という考え方を共有しつつも、2.利益衡量を階層化した形で行うかどうかという点で異なっているという認識を前提に、(1)なぜそのような違いが生じるのかを「違憲審査基準」の側から歴史的に解明し、(2)利益衡量の階層化は、「違憲審査基準」の「比例原則」に対する優位性を確保できるかどうかを理論的に検証するとともに、(3)権利の制約の正当化を、政府の行為の帰結の正当性に着目する利益衡量に求めることには限界があり、政府の行為の理由に着目する必要があり、それは実際に可能であることを具体的に示そうとするものである。 研究の最終年度に当たる平成28年度の研究においては、これまで論文や学会報告の形で公表してきた本研究に対する憲法学界の評価や応答を踏まえて、本研究を総括し今後の課題を示す論稿「違憲審査基準について」(現時点で再校ゲラの段階にあるが、この論稿が収録される予定の書物の名称は未定である)を執筆するともに、『注釈日本国憲法(2)』(有斐閣、2017年)の執筆担当部分(「憲法21条」)や、執筆した論稿「『隔離』される集会、デモ行進と試される表現の自由」において、表現の自由や集会の自由の問題に関して本研究の成果が実際に応用可能であることを具体的な形で示した。
|