本年度は,憲法18条後段が禁止する「意に反する苦役」の現代的意義に関する論考を公表し(1),その後,人身の自由を規律する刑事手続への国民参加の意義に関する論考を公表した(2)。また,その副産物として,人身の自由を規定する統治システムに関する概説書を共著で公表した(3)。 (1)は,裁判員制度を合憲とした最高裁大法廷判決を素材に,憲法18条後段が禁止する「意に反する苦役」に関する判例・学説を整理・分析したものである。同判決は,その趣旨の不明確性を必ずしも否定することができないものの,裁判員の負う義務・負担は同条後段が禁止する「意に反する苦役」」自体に当たらないと解したものとして賛同できる。他方,学説は同条後段に関し,強制労働一般を禁止する広義説を採用する傾向があったが,同説では現行諸制度の憲法適合性を説明し切れない。したがって,同条後段が明示する刑罰に準じる苦痛を与える強制労働のみが同条後段の禁止対象と解する狭義説を採用すべきと主張した。 (2)は,刑事手続への国民参加を求める諸制度に関して,やや冷めた視点から検証を行ったものである。とりわけ,裁判員制度は,国民の統治主体意識を涵養するものとして不十分な効果しかないのみならず,法曹が支配する刑事手続を変容させるものとしての効果も薄いといわざるをえない。これは,制度実施当初から,刑事手続に関する国民の役割を否定的に捉えていた帰結とみるほかないが,その一方で,死刑制度の存置に関して,国民世論を正当化の根拠にするのは矛盾していると論じた。 (3)は,統治システムのなかで法の支配,安全保障,2院制,憲法改正手続がそれぞれ有する意義について,解説したものである。
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