平成25・26年度に実施した「緊急事態における法と裁判官の役割」という問題と関わる〈9.11〉以後の英米憲法理論の議論状況の分析・整理を踏まえて、日本国憲法との関係でこの問題を検討した。具体的には、英米憲法理論の議論状況から導き出したLehalityの観念に注目しつつ、①裁判官の良心と②国家緊急権の問題に関する憲法理論的研究を行った。 ①の問題については、長谷部恭男教授の「裁判官の良心」論に触発されつつ、「裁判官にとっての裁判官の良心」という問題を憲法理論的に検討した。緊急事態において「法の支配」を維持するためには、裁判官としての職業倫理に関する規範的要求だけでは足りず、裁判官の通常の職務との関係で、「裁判官の良心」の主観性の確認とその意味の解明が必要であるとの立場から、従来の学説の問題点を指摘し、将来において検討すべき課題を明示した。 ②の問題については、国家緊急権に対する立憲的統制を可能なかぎり追求する立場から、現在の日本の国家緊急権論議を念頭に置きつつ、emergencyを「緊急事態」と「非常事態」に区別し、前者については、「憲法方式」ではなく「法律方式」で緊急対応を制度化し、可能なかぎりの立憲的統制をかける一方、後者については、Oren Gross教授の「法外モデル論」を参考にしつつ、法の外部の問題として処理し、熟議民主主義のプロセスに期待をかける議論を試論的に提起した。 ①と②の研究は相互に関連しており、「緊急事態における法と裁判官の役割」というテーマについて一定の研究成果を上げることができた。
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