本研究は,「領域融合型」の新たな行政法理論の創成を目指すものである。具体的には,(1)ガバナンスの視点による「行政規律法」を政治学・社会学におけるガバナンス論および民主制論との間での議論枠組みの共通化をおこなうこと,(2)リスク論と行政法理論の接合を試みること,(3)行政法の用語・法理を他の法領域との間で,共通化することを探ること,(4)日本の立法過程・司法過程の「経験的アプローチ」をふまえて,法解釈論的知見を法律研究者が利用する方法論の確立を目指すことである。 以上のうち,本年度(最終年度)は,すでに完了させた(1)を除き,(2)に取り組むとともに,ほぼ完了させた(3)(4)の仕上げを行った。行政法理論を法律学全体で汎用性のある形に組み換え,また政策学など他学問との共通言語化を図るという目的を,民事訴訟法と行政訴訟理論,民事実体法と行政実体法,政策学と行政作用法の各面について,ほぼ,達成することができた。 まず,行政訴訟(抗告訴訟)の原告適格論について,民事訴訟の当事者適格論(訴えの利益論)と共通構造で捉え直す方法を明らかにし,かつそれにより,最高裁判例が明快に説明できる(3つの異なる権利利益をもとに原告適格を認めていると説明する)という研究成果を公表した。 次に,民事実体法と刑事実体法が,行政実体法とともに,政策目的の実現のために共通して,あるいは役割分担して使われる状況を「法の三原色」と表現して,諸法(消費者法,金融法,経済法などなど)の構造を理解することにより,より効果的な法制設計ができるという研究成果を公表した。 さらに,被規制者のリスク選好やゲーム戦略という考え方にヒントを得て,行政法の分野で言われる「過少執行」「規制欠缺」などを,より明確に説明する方法を案出し,より効果的な法制度設計ができるという研究成果を公表した。
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