研究課題/領域番号 |
25380042
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
大日方 信春 熊本大学, 法学部, 教授 (40325139)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 憲法 / 知的財産権 / 表現の自由 / 商標権 |
研究概要 |
知的財産権とは、情報や表現といった無体物に国家が管理権を設定することで成立した財産権です。このような国家行為は、一面で文化や産業の発展に仕えるものですが、反面で当該無体物を利用する後続者の行為規制にもあたります。知的財産権の設定は、国家による行為規制の面をもつのです。本研究は、上のような視点の下で、知的財産権の設定と憲法上の権利、利益を調整する法理論を検討するものです。 ところで、知的財産権に含まれている特許権、著作権、商標権などを、それらを保障する目的や機能の面から分類すると、「創作」に関するものと「標識」に関するものに区別できます。前者の「創作」に関わるものとして、特許権、著作権、意匠権などが、後者の「標識」に関するものには、商標権や不正競争防止法上の権利などがあります。本研究の代表者は、これまで、前者の「創作」に関する著作権、特許権と憲法上の権利、利益とを調整する法理論について、研究成果を公表してきました。本研究は、こうした「創作法」と憲法理論の関係についての研究手法、研究成果を確認し、その上にたって、「標識法」と憲法理論との関係について検討するものです。 平成25年度は、上の研究の第一年目でした。25年度の研究目標は、知的財産法に関する法理論を再検討し、憲法理論との関係で検討すべき課題を洗い出す作業を行うことでした。和書を中心に、当該課題にとり組み、「現在までの達成度」にあるような成果を得ることができました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、知的財産法に関する法理論を再検討し、憲法理論との関係で検討すべき課題を、再度、洗い出すことが目標でした。 その手法として、本年度は、知的財産法および憲法に関する和書を中心に、文献の渉猟を行いました。ただ、もともとこのテーマを意識的に扱っている文献は少なく、当初は、成果の実現を危ぶんでおりました。ただ、情報やデータ等に管理権を設定して、当該無体物を情報・データ主体の管理下におくという法理論は、従来から、憲法学でも検討してきたテーマでした。個人情報保護法制、名誉保護法制、プライヴァシー権理論などが、これにあたります。無体物である知的財産に管理権を設定し、作者、発明者の管理下におく法制度は、こうした従来から憲法学で検討されてきたテーマと同じ枠組みで検討可能なのでは、という発想を得ました。その結果、①財産権の一種とはいえ、知的財産権は管理可能性の低い無体物に設定された財産権であること、②その創作、発見には先行する創作物、発明等に依拠していること、③したがって、「フェア」とされる利用形態については憲法上の免責が与えられるべきであること、このような知的財産権をみる憲法学(憲法理論)上の視点を得ることができました。 このような成果を得ることができた平成25年度の研究は、上の(2)に該当すると判断しました。
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今後の研究の推進方策 |
知的財産権は、「研究実績の概要」で述べているように、国家による行為規制の面をもちます。それは、文化、産業の発展を目的にしているとはいえ、そのことだけを理由として、憲法上の権利、利益の制約が正当化されるわけではありません。平成25年度の成果として得ている「フェア」とされる行為形態については、憲法上の免責が与えられるべきなのです。 今後は、どのような行為形態が「フェア」といえるものなのか、その理由および判定基準を検討することが、本研究の課題です。 その手法として、平成25年度は、和書を中心に研究テーマを検討してきました。今後は、和書、日本の裁判例にくわえて、この問題に関する研究業績が比較的蓄積されている合衆国の法理論、裁判例を検討していく予定です。具体的には、研究機関で利用できる文献・判例データベース(Lexis等)を有効活用すると同時に、海外から文献をとり寄せて、当該課題にとり組んでいく予定です。 また、「知的財産権と憲法」の研究テーマは、法学における学問領域としては、憲法学と知的財産法学の両方にまたがるものです。そこで、研究代表者の学問領域(憲法学)の学会、研究会だけでなく、知的財産法学の国内外の学会、研究会に参加して、異なる学問領域の研究者の知見も参照する予定です。
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次年度の研究費の使用計画 |
海外に洋書の発注を考えていたら、それが年度末であったため、次年度に繰り越した。 上記洋書の購入。
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