研究課題/領域番号 |
25380045
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
今村 哲也 明治大学, 法務研究科, 教授 (00160060)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | オーストリア公法 / 連邦内務省 / オンブズマン / 人権審議会 / 訪問委員会 / 国連拷問禁止条約 / 国内抑止メカニズム / 国連OPCAT条約 |
研究概要 |
本年度の研究は、オーストリア安全警察法(SPG)特に組織法部分に関する立法展開に重点をおいた。 オーストリアでは、国連拷問等禁止条約の選択議定書(2006年)の国内実効化法(OPCAT実施法)が2012年に制定されている。法は、連邦憲法典・安全警察法さらにオンブズマン法等の改正を内容とするが、その中核は、選択議定書の趣旨に則り、内務大臣の下その第三者諮問機関として設置されていた人権審議会(1999年安全警察法改正による設置)とその実働機関である訪問委員会(警察執務所への立入・警察治安活動への同行調査権限を有する)を新たにオンブズマンに統合するものであり、議定書の要請である-締約国に、拷問ないしこれに類する人権侵害(自由剥奪)の虞を内包する全ての公設・私設機関に対する不定期・予告なしの訪問実施の常設機関の設置-に応える措置立法であり。その生成プロセスと実際運営の実証的研究に従事した。 内相審議機関としての人権審議会は警察活動における人権侵害の抑止と制度不備の指摘と改善勧告に限定されていたが、行政への苦情受理機関であるオンブズマン下での人権審議会は、正規の行政救済手続を求めえない行政全般への制度チェック機能をも獲得するに至っている。警察組織内部に設置された第三者諮問機関が、位置付けも新たに、公私を問わない閉鎖的空間(警察執務室・勾留施設・病院・介護ケア施設等)における拷問類似行為の国内的(人権侵害)抑止機関(NPM)としての機能を有するに至り今後の展開が注目される。 わが国においても、現行制度に代わるソフトローコントロール(憲法請願権の受容)機関としてのオンブズマン創設への立法議論の発端となるべく、これら立法プロセスが如何に展開されたかを関係資料の考察と文献分析さらにオンブズマン事務局への訪問・聞き取りにより実証的に考察分析し、わが国へのあるべき制度設計の示唆を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本務である法科大学院における授業負担が多大であるため、研究時間の十分な投入には困難を来すが、立法プロセスの総合的実証的研究に不可欠の現地オーストリアへの研究訪問は有益であった。とりわけ、3名から構成されるオンブズマンの現職ペーター・コステルカ法学博士に直接制度運営に関する質問機会を設けていただいたのは、オンブズマン事務局主幹ビッツァースドルファー氏のご厚意による。さらに氏から立法資料に係る行間趣旨と背景の聴取ができ、研究の実証性を確保することに役立った。 現地取材に加え、研究対象機関創設に関する文献をの入手により、当時の立法議論を詳細に分析・検証することができた。 特筆すべきは、本研究の遂行中、国際人権法学会から招聘講演者の依頼を受けた。平成25年11月24日、名古屋大学における学会第25回研究大会において、国際人権機関・国内人権機関報告を構成する研究報告として「オンブズマンの再編(オーストリア)-OPCAT(拷問禁止条約選択議定書)発効を契機として」を行なった。本年度科研研究実施の研究成果の概要を、研究遂行と同時に公表し関連学会での口頭発表の形にせよ還元できたことは、研究成果の外部発信という意味で充実しかつ評価に値するものであると思料する(なお口頭発表概要については、国際人権法学会誌に追って掲載される予定である)。 さらに研究従事年度平成25年度末(平成26年3月29日)には、本務校である明治大学法科大学院論集第14号に「オンブズマンの現代法的展開-請願の受容と国際人権法の国内実効ー」と題する研究論文を公刊・公表した(207~253頁)。憲法請願権規定の現代的な意義を問いつつ、国際人権法分野にあっては人権侵害抑止機関としての常設機関が近時必須の国家要素と把握され、この国際約束がいわゆる国内のクラシックなソフトローコントロールと結節する点を実証的に提示することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究年度の研究重点は、個々の警察官(執行機関)の権限行使に関する日・独・墺の法制を比較考察し、わが国法制の限界状況の確認とあるべき法制改革への示唆となるべき成果を得これを提示することにある。わが国警察法は、法理論については伝統的にドイツ法に依るとされるが、組織原理は実体的指揮権を留保する国家公安委員会制度(警察庁)の下で実働警察を都道府県の公安委員会(都道府県警察本部)の下に設置する、共和制(オーストリア型)警察と連邦(ドイツ型)警察の中間的混合形態となっている。また具体的法制では、警察法は実質的には組織法であり、警察執行機関への命令強制の授権法である警察官職務執行法は僅かな条文だけを規定し、その具体化・詳細化は国家公安委員会による委員会規則(行政規則・法規命令)に委ねられている。規則による法律要件の詳細化を可能としているのは、行政委員会制度の関与である。 わが国では法理論、組織構造、授権形式、民主主義要素等が複雑かつモザイク的に警察法システムと運用を構成している。他方、この構造は警察という典型的侵害行政で徹底さるべき法治(事実行為も含む侵害作用の法的裏づけ)主義の「不徹底」をもたらす虞がある。先の法原則ないし民主的要素は相互に排除する存在でなくむしろ侵害行政に対する人権確保の重層的装置として、改めて有機的に理解される必要がある。 本年度研究においては、比較法研究の観点からドイツ警察法研究者からの知見の聴取もその要素としながら、組織的にはオーストリア警察制度に親和性を有する(日・墺ともに制度模範としたのはフランス警察組織である)わが国におけるオーストリア安全警察法の執行機関への授権法構造を分析し、その成果をあるべき法制度設計の提言とする。 その際、行政法一般理論における執行機関概念の再検証を必要とするため、この点での研究時間・資料収集のためにも費用投入が不可欠である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初購入を計画していたオーストリア連邦憲法典のクナイス教授・リーンバハー教授編著によるコンメンタール集が、出版社の事情により、国内購入が不可能となったため、予定の予算執行が不可能となった。さらに本務校明治大学での平成26年度在外研究滞在者として選任されウィーンでの在外研究研究滞在の準備のため、25年度末に予定していた2度目の現地取材訪問を実施するについての時間を確保することができなかった。この分の海外取材出張費の執行ができなかった点に、次年度使用額の発生理由がある。 上記コンメンタールについては、版が重ねられて国内入手が可能となった情報があり本年度に購入する予定である。また、2012年制定・2014年1月1日に施行となった連邦およびラント(邦)における二元的行政裁判権の導入(行政裁判所法改正)により、従来までの警察による事実行為に対する行政不服申立ての在来審級制度が全面改正されることとなった。行政裁判制度の全面改正は、警察作用に関する争訟制度を根本的に変革するものでありこれに関する解説文献が多種多数刊行されているため、これら文献は行政権限特に警察権限研究についても必須の文献であるため、本年度研究費をそれらの入手に充当する。 現地への研究訪問については、在外研究滞在地をウィーンとしたため前年度の実証研究を補って余りある成果を獲得することができるため、比較法的研究による研究深化を企図して、ドイツベルリン自由大学への研究出張などに研究費を充当する予定である。
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